毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 石蟹 / イシガニ
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。なお、実際には、以下の画像の左上部及び中央には、「津蟹」のキャプションと、同個体の歩脚があるのだが、流石に五月蠅いので、今回は文字のない本丁の一部分を切り取り、それをそこに貼りつけて、意図的に消してある。]
「兼名苑」に云はく、
石蟹【和名「以之加仁(いしかに)」。】
海際(うみぎは)の石の下に生ず。故に以つて、之れを名づく。又、蟹に似たる石を「石蟹」と名づく。名、同じく、物、異(い)なり。蟹に似たる石は、「金臺記聞(きんだいきぶん)」に曰ふ所の者、是れなり。「谷蟹」も「石蟹」と云ひ、別種なり。
天六乙未年終冬十日、眞寫す。
[やぶちゃん注:これは、
短尾下目ワタリガニ科イシガニ属イシガニ Charybdis japonica
に比定してよかろう。イシガニについては、「大和本草卷之十四 水蟲 介類 蟹(カニ類総論)」の「潛確類書」の私の注を見られたい。「大和本草」のその本文には「谷カニ」も出る。私はそこでは、「谷蟹」なるものを、短尾下目サワガニ上科サワガニ科サワガニ属サワガニ Geothelphusa dehaani に比定した。少なくとも、益軒の述べる、『「谷カニ」あり、山谷の石間に生ず。小にして赤し。是れも亦、食ふべからず。野人は食ふ。「本草」の「集解」に「石蟹」と云ふは、是なるべし。』とある、益軒が本邦種として同定したそれは、それで正しいと思う。梅園が同じかどうかは判らぬが、まあ、本邦で「谷蟹」と言うとするなら、「沢蟹」に以外には私はあり得ないと思うのである。
「兼名苑」唐の釈遠年撰とされる字書体語彙集だが、散佚して現存しない。ここは実は源順の「和名類聚鈔」の巻十九の「鱗介部第三十」の「龜貝類第二百三十八」の以下の受け売りである。国立国会図書館デジタルコレクションの寛文七(一六六七)年の板本のここを見られたい。
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石蟹 「兼名苑注」云はく、『石蟹【和名「以之加仁」。】は海際の石の下に生ず。故に以つて、之れを名づく。』と。
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「金臺記聞」明の学者で愛書家としても知られた陸深(一四七七年~一五四四年)の撰になる隨筆。早稲田大学図書館「古典総合データベース」の元末明初の学者陶宗儀の漢籍叢書「説郛」(せっぷ)のこちらで見られるが(PDF・93コマ目から)、梅園がどこを指してかく言っているのか、私には判らなかった。
「天六乙未年終冬十日」天保六年十二月十日。グレゴリオ暦一八三六年一月二十八日。]
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