毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 白蝦(シラタ) / シラタエビ(再出)
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。左のナマコ一個(背部・腹部二点)は既にこちらで電子化注してある。以下、クレジットは中央下部にあり、左下部に添え書き風に追加記事が記されてあるが、クレジットは性質上、一番最後に回した。]
白蝦【「しらた」(江戸。)・「しらさい」・「つゆゑび」。】
「本草綱目」に曰はく、『鰕は「河ゑび」の總名なり。大抵、皆、長き鬚(ひげ)、尖れる鼻にして、節あり。水に、游(およ)ぎ躍り、飛ぶ。大・小・長鬚・片鬚・青・白色の數品(すひん)あり。時珍曰はく、鰕、江湖に出づる者、大にして、色、白。溪地に出づる者、小にして、色、青し。其の青色なる者、「青鰕」と曰ふ。白色なる者、「白鰕」と曰ふ。色を以つて名づくるなり。』と。
予、曰はく、白蝦の小なるもの、江戸両国川及び永代橋の邉り、多く水上の躍り飛び、游ぐ。其の大なる者、二、三寸に過ぎず。江戸芝の海に多く産す「芝ゑび」の中に交じり産す。煮熟すれども、其の色、紅色に成らず。
蠶鰕(かひこえび) 「江隂縣志」に曰はく、『蝦、大小、一つとせず[やぶちゃん注:「一つとして同じものはない。」の謂いであろう。]。一種、白くして軟らかなるを、「蠶蝦(サンカ)」と名づく。』と。「しらゑび」・「かわゑび」・「しらさゑび」【備前岡山。】。
・「白蝦」は、梅雨(つゆ)の中(うち)、多くとるを、「つゆゑび」と云ふ。「梅蝦(うめえび)」、是れなり。
乙未(きのとひつじ)壬[やぶちゃん注:「閏」の略字。]七月八日、之れを得て、眞寫す。
[やぶちゃん注:既出の、
抱卵亜目テナガエビ科スジエビ属シラタエビ Exopalaemon orientis
である。そちらの私の注を参照されたい。
『「本草綱目」に曰はく……』の引用は、随分、ひどい、いい加減なものである。「漢籍リポジトリ」の「本草綱目」巻四十四の「鱗之三」の「鰕」の項である[104-51a]を見られたいが、全然、本文に即していないのである。さればこそ、漢文ではなく、訓読したような形にしてあるのであろうが、過半以上が、時珍の叙述を、本邦のエビ類に合うように、書き換えてしまった捏造文である。
「溪地」渓谷の谷川や山間の池沼。
「江戸両国川」前に示した、「御船蔵」の北を流れる、現在の国道七号の下を流れている隅田川から分岐した人工河川竪川(たてかわ)(グーグル・マップ・データ。以下同じ)辺りであろう。
「永代橋」その下流のここ。
「江隂縣志」明張袞らの纂になる、現在の江蘇省無錫市付近の地誌。北が長江河口の汽水域であり、シラタエビは中国にも棲息するので、同一種である可能性は高い。
「乙未(きのとひつじ)壬七月八日」天保六年閏七月八日。グレゴリ暦一八三五年九月二日。]
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