萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 恐ろしい山
恐 ろ し い 山
恐ろしい山の相貌(すがた)をみた。
まつ暗な夜空にけむりを吹きあげてゐる
おほきな蜘蛛のやうな眼(め)である。
赤くちろちろと舌をだして
うみざりがにのやうに平つくばつてる。
手足をひろくのばして麓いちめんに這ひ廻つた
さびしくおそろしい闇夜である。
がうがうといふ風が草を吹いてゐる 遠くの空で吹いてる。
自然はひつそりと息をひそめ
しだいにふしぎな 大きな山のかたちが襲つてくる。
すぐ近いところにそびえ
怪異な相貌(すがた)が食はうとする。
[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。「萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) 恐ろしい山」を参照されたい。]
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