萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 鴉毛の婦人
鴉 毛 の 婦 人
やさしい鴉毛の婦人よ
わたしの家根裏の部屋にしのんできて
麛香のなまめかしい匂ひをみたす
貴女はふしぎな夜鳥
木製の椅子にさびしくとまつて
その嘴(くちばし)は心臟(こころ)をついばみ 瞳孔(ひとみ)はしづかな淚にあふれる。
夜鳥よ
このせつない戀情はどこからくるか
あなたの憂鬱なる衣裳をぬいで はや夜露の風に飛びされ。
[やぶちゃん注:「麛香」はママ。「麝香」の誤植。「麛」は音「ベイ・メイ」で、意味は「幼い鹿・鹿の子・小鹿・かのこ」或いは「広義の獣の子・幼獣」を指し、「麝」とは全くの別字である。「鹿」部では一画違いで、「麛」は恐らく植字箱のすぐ横に並んでいたと思われる。「萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) 鴉毛の婦人」を見られたい。]
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