毛利梅園「梅園介譜」 水蟲類 三種 毛蟹・青蝦・草蝦 / モクズガニ・フトミゾエビ・モエビ
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。写生のクレジットが一つしかなく、同一の紙に描かれていることから、三種セットで採った。梅園先生はフィールド・ワークがお好き💛 正しい博物学者である。]
毛蟹【「モクヅカニ」・「スガニ」。】
青蝦【一種。脊節一條、黃なる者。】
草蝦(あをゑび)【海産。「もくづゑび」。】
丁酉十三日、品川大森干泻(おほすひがた)にて、之れを捕ふ。十四日、眞写す。
[やぶちゃん注:「毛蟹」と大書する個体は、今一つ、絵が上手くないが、異名二つからも、既出の、
短尾下目イワガニ科モクズガニ属モクズガニ Eriocheir japonica
でよかろう。
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「青蝦」と大書する個体は、「脊節一條、黃なる者。」とあることから推して、
十脚目根鰓亜目クルマエビ上科クルマエビ科フトミゾエビ属フトミゾエビ Melicertus latiaulcatus
ではあるまいか。当該ウィキによれば、全長二十センチメートルに『達し、クルマエビ科』Penaeidae『の中でも大型種の部類である。生体の体色は一様な淡黄色で』、『縞模様はなく、同じくらいの大きさになる』クルマエビ属クルマエビ Marsupenaeus japonicus ・ウシエビ属クマエビ(熊海老) Penaeus semisulcatus ・ウシエビ(牛海老)属ウシエビ Penaeus monodon 『等と区別できる。額角は比較的短く、鋸歯は上縁に』九~十二個、『下縁に』一『個ある。頭胸甲の中央は』、『額角の隆起が後端まで続き、その両側に隆起より幅広い溝がある。和名はこの溝が他種より際立つことに由来する。他に日本での地方名としてシンチュウ、シンチュウエビ(各地)、スベリ(京都)、セーグヮー、シルセー(沖縄)等があり、これは真鍮に似た淡黄色の体色や平滑な体表に由来している』。『南日本・オーストラリア・紅海まで、インド太平洋の温暖な海域に広く分布するが、クルマエビより暖かい水域を好む。日本近海では能登半島が分布北限で』(太平洋側は房総半島以南)、『この周辺では小ぶりだが、南西諸島産は大型になり』、『漁獲量も多くなる。浅海の砂泥底に棲息し』、七~九『月に産卵する』。『旬は秋ごろで、煮つけや天ぷらに利用される』とある。鋸歯は本図では七個ほどしか確認出来ないが(別人の写本では五個しかない)、背溝が決め手になるようには思われる。
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「草蝦」と大書する個体は、「海産」と明記していること、異名の「青蝦」「藻屑蝦」から、
クルマエビ科ヨシエビ属モエビ Metapenaeus moyebi
或いはその近縁種と同定してよかろう。当該ウィキによれば、『成体の体長は』十~十三センチメートル『ほどで、同属の』シバエビ Metapenaeus joyneri や、ヨシエビ Metapenaeus ensis よりも『小さい。額角は水平に前方に伸び、上縁だけに』六~八『個の鋸歯がある。甲は薄くて柔らかく、細毛が密生したくぼみが各所に散在する。新鮮な個体は淡黄色』から『淡青緑色で、尾肢が緑色に縁取られる。英名“Green tail prawn” (緑色の尾をしたエビ)はここに由来する』。『パキスタンから東南アジアを経て西日本まで、インド洋と西太平洋の熱帯・温帯海域に広く分布する。日本での分布域は、日本海側が七尾湾以南、太平洋側が東京湾以南とされている。温帯域では個体数が少ないが熱帯域では個体数が多く、重要な水産資源にもなっている』。『水深』二十メートル『ほどまでの、内湾や汽水域の砂泥底に生息する。和名通り』、単子葉植物綱オモダカ目アマモ科アマモ属アマモ Zostera marina (別名で「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(龍宮の乙姫の元結の切り外し)」という最長の植物和名異名で知られる海産の顕花植物である。藻類ではない)『などの藻場にも多い』。『昼は砂泥に浅く潜り、夜になると動きだす。クルマエビ科の中でも特に浅い海に生息し、夜に内湾の波打ち際や河口域で姿を見ることもある』。『産卵期は』七~九『月だが、寿命や生態など詳しいことはよくわかっていない。ただ』、『量的にはクルマエビよりはるかに多く、その点でも水産上』、『重要視されている。旬は漁獲の多い盛夏の頃。煮付けや寿司だねに用いる』とある。名前の青(本邦の近世の色名では有意に緑色に傾く)や草及び図の暗緑色が不審な方のために言っておくと、モエビ類は外敵からの捕食を避けるために、例えば、鮮やかな緑色のアマモ場などでは、体色を緑色に偏移させて、鮮やかな緑色となり、見事に擬態するのである。
「丁酉十三日」天保八年。月を落している。前後の図からも、月は判らない。
「品川大森干泻」「今昔マップ」ではこの中央附近。最早、梅園がこれらを採った本当の「大森干潟」は存在しない。]
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