萩原朔太郎詩集「定本 靑猫」正規表現版 くづれる肉體
くづれる肉體
蝙蝠のむらがつてゐる野原の中で
わたしはくづれてゆく肉體の柱(はしら)をながめた。
それは宵闇にさびしくふるゑて
影にそよぐ死(しに)びと草(ぐさ)のやうになまぐさく
ぞろぞろと蛆蟲の這ふ腐肉のやうに醜くかつた。
ああこの影を曳く景色のなかで
わたしの靈魂はむづがゆい恐怖をつかむ
それは港からきた船のやうに 遠く亡靈のゐる島々を渡つてきた。
それは風でもない 雨でもない
そのすべては愛慾のなやみにまつはる暗い恐れだ。
さうして蛇つかひの吹く鈍い音色に
わたしのくづれてゆく影がさびしく泣いた。
[やぶちゃん注:「ふるゑて」「むづがゆい」はママ。「萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) くづれる肉體」、及び、「萩原朔太郎 くづれる肉體 (初出形)」を参照されたい。]
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