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2022/02/28

萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 竹の根の先を掘るひと

 

 竹の根の先を掘るひと

 

病氣はげしくなり

いよいよ哀しくなり

三ケ月空にくもり

病人の患部に竹が生え

肩にも生え

手にも生え

腰からしたにもそれが生え

ゆびのさきから根がけぶり

根には纎毛がもえいで

血管の巢は身體いちめんなり

ああ巢がしめやかにかすみかけ

しぜんに哀しみふかくなりて憔悴れさせ

絹糸のごとく毛が光り

ますます鋭どくして耐えられず

ついにすつぱだかとなつてしまひ

竹の根にすがりつき、すがりつき

かなしみ心頭にさけび

いよいよいよいよ竹の根の先を掘り。

 

[やぶちゃん注:大正四(一九一五)年二月号『卓上噴水』に発表された。

・「三ケ月」は「三日月」。

・「憔悴れさせ」は「やつれさせ」と私は二字に当て訓して読む。以下の草稿を見よ。

 さて、本篇も「竹」詩篇関連で何回も電子化し、言及もしているのだが、本篇自体の一つの草稿を電子化していなかった。それを以下に示す。筑摩版全集の『草稿詩篇「拾遺詩篇」』に載る以下の無題のもの二種である。歴史的仮名遣の誤りや誤字は総てママ。

   *

 

  

 

病氣おもくなりはげしくなり

いよいよ哀しくなり

月は三ケ月そらにうすぐもりにくもり

人の氣のからだぢう肢體に竹が根え

その肩にも竹が生え

手にも生え

指のさきから根がけぶり

はだかになれば

迷走神走の血管中にの巢は身體いちめんなり

みよみよすでに

ああすでに哀しみきはまりて

ああじつにおとろへますます哀しみつらくなり

すでにすつぱだかになりて

竹の根にすがりつき、すがりつき、

いよいよいよいよ哀しくなり。

あきらめほそきあきらめ竹の根のさきを掘

 

 

  

 

病氣はげしくなり、

はつ春ちかく、(いよいよ悲しくなり)

三ケ月空にうすくもり、

病氣の肢體 の患部に に竹が生え、(病入の患部に竹が生え)

肩にも竹が生え

手にも生え

腰からしたにもそれが生え

指のさきから根がけぶり

根には纖毛がけぶりもいで

絹糸のごとく毛が光り

血管の巣は身體いちめんなり、

ああ巢がしめやかにはびこりかすみかけ、

しづにしづにそれが自分を

しぜんに哀しみふかくなりて全身わが身を★憔悴//やつれ★させ

[やぶちゃん注:「★」「//」は私が附した。「憔悴」と「やつれ」が併置残存していることを示す。]

ますます、鋭どくしてたえられず

ついにすつぱだかとなつてしま へば

竹の根にすがりつきすがりつき

いよいよいよ われがさびしく なり なりてなみだぐみ哀しくなり、

あきらめ、あきらめ竹の根の尖を堀り。

絹糸のごとく毛が光り。

 

   *

 なお、萩原朔太郎の病的な広義の竹や竹の根をモチーフとした「竹」関連詩群は、これだけで一冊の研究書や病跡学書が書けるもので、私の記事を集成したものとしては、

萩原朔太郞詩集「蝶を夢む」正規表現版 巢

の注がよかろうかとは存ずる。見られたい。]

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