萩原朔太郞「拾遺詩篇」初出形 正規表現版 虫
虫
いとしや
いとしや
この身(み)の影(かげ)に鳴(な)く虫(むし)の
ねんねんころりと鳴(な)きにけり
たれに抱(だ)かれて寢(ね)る身(み)ぞや
眞實(しんじつ)我身(わがみ)は獨(ひと)りもの
三十になるといふ
その事(こと)の寂(さび)しさよ
勘平(かんぺい)さんにはあらねども
せつぷくしても果(は)つべきか
ても因業(ゐんがう)なくつわ虫(むし)
[やぶちゃん注:太字は底本では傍点「ヽ」。「因業(ゐんがう)」のルビはママ(「いんごう」の歴史的仮名遣は「いんごふ」である)。大正二(一九一三)年十月八日附『上毛新聞』に発表された。
・浄瑠璃「仮名手本忠臣蔵」(竹田出雲他共作・初演寛延元(一七四八)年大坂嵐座初演)の登場人物の一人である早野勘平。塩谷判官(えんやはんがん)の家臣。判官の大事に遅れをとり、妻お軽(かる)の故郷山崎村で猟師に身をやつしていた折り、猪を狙い、誤って舅(しゅうと)を殺した定九郎を撃ち殺す。それを誤って舅を殺したと思い、切腹して死ぬ、と解説してもつまらない。文楽で通し狂言で見られよ。私は大阪と東京で二回見たが、通しは面白いものの、かなりの体力と覚悟がいる。]
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