萩原朔太郎 未発表詩篇 無題(菊のにほひをかぎなれし……/(抹消標題は「酒を飮む、」)
酒を飮む、
私 このふくらみある
くちびる
愛 求めて る るものは酒である、
穴の中に 眠 落ちてゆく瞳
眠れるひとよ
紅を くちびるに酒盃をあてて
菊のにほひをかぐぎなれし
いまくちびるに菊の酒盃
わかるる日のなみだにぬるる頰をあててよ
君は若くたくましく肥えたる少女
君のかげ かげ日なたなき
君わかるるといふになにゆえの酒宴ぞや
[やぶちゃん注:底本は筑摩版「萩原朔太郞全集」第三巻の「未發表詩篇」の校訂本文の下に示された、当該原稿の原形に基づいて電子化した。表記・誤字・歴史的仮名遣の誤り・削除に至るまで、総てママである。編者注に『「ノート」より』とある。整序すると、
*
○
菊のにほひをかぎなれし
いまくちびるに菊の酒盃
なみだにぬるる頰をあててよ
君は若くたくましく肥えたる少女
わかるるといふになにゆえの酒宴ぞや
*
なお、底本の『草稿詩篇「未發表詩篇」』に以下の草稿が載る。
*
○
菊のにほひをかぎたまへ
菊の葉のはげしきうれひをつみたまへ、
そのくちびるのに靑ざめし手をふれて
そのあたたかき頰に頰をよせ
許したまへ□、君の□□
道
*
個人的には、本篇は「エレナ」詩篇ではないかと思う。「エレナ」の原モデル像である、萩原朔太郎が愛した馬場ナカの結核に罹患する以前の若き日の「頰」のふっくらとした健康的な美しい彼女の写真は、「君は若くたくましく肥えたる少女」と表現するに相応しいと私は感じるからである。釣り師ジュンチャン氏のブログの『日本最長10河川の旅で出会った「日本を代表する人物」その5 利根川 NO2 朔太郎の妹「アイ」と初恋の女「馬場ナカ」』を見られたい。]
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