萩原朔太郎 未発表詩篇 無題(窓をひらけばいつぱいのさくらだ……)
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わが窓の扉窓をおひらけばいつぱいのさくらぎだ
あかい日光の
顏のうへにおしかゝるさくらのはなだ
あかるくしてちらちらしてまぶしい
けれどもやたらにうれしい
お茶をもつてお居できてくださいお母さん
朝つぱらからお客だよですよ
いひなづけの若い御婦人ですよ御婦人ですよ
さあ窓のそばにおかけなさいお姬さまくださいな
おつれのお方もどうぞこちらヘ
さてゆつくりとあつたかいお茶をさしてお菓子をたベて
森の話をきかせてくださいよ→ちようだいな→くれ給へおくれな
そうして愉快にやりませうね
ちよい あれ と お待ち→おきゝ おらんなない
わたしが口笛をふいてきかせまうね
春 が のかけ てりつこをするけしきです よ がね
家の子供たちが
ふうせん
そしてありがたう
ありがたう、このごろは元氣でね
すてきな繪をかいてあそんで居るんです
もつともこいつはすこし
[やぶちゃん注:底本は筑摩版「萩原朔太郞全集」第三巻の「未發表詩篇」の校訂本文の下に示された、当該原稿の原形に基づいて電子化した。表記は総てママである。五行目の抹消部「お居で」は「お出で」の誤記、後ろから九行目の抹消部「おらんなない」はよく判らない。編者は安易に『ごらんなさい』の誤記とするが、それが妥当かどうかは私は留保する。編者注が最後にあり、『本稿には以下がない』とある。]