毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 鳴戸螺(ナルトホラ) / コナルトボラ・アオモリムシロ
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。これが最後となる。ここにある全十六図(同一個体の裏・表でもそれぞれを一つと数えて)は右下方に「此數品武江本鄕住某氏町醫所持見津ㇾ自予寫ヿヲ願カフ故天保五甲午年九月初一日眞寫」(此の數品(すひん)、武江本鄕住(ぢゆう)、某氏、町醫の所持より見つ。予、寫すことを願がふ。故(ゆゑ)、天保五甲午(きのえむま)年九月初一日(しよついたち)、眞寫す。)と、写生対象についての経緯及びクレジットがある。グレゴリオ暦で一八三四年十月三日である。]
鳴戸螺(なるとぼら)【二種。】
[やぶちゃん注:上部の個体は、「鳴戸」を名にし負う、
腹足綱前鰓亜綱盤足目ヤツシロガイ超科オキニシ科オキニシ亜科オキニシ属コナルトボラ Bursa ranelloides
としてよいように思われる。房総半島以南に棲息する。
しかし、下の個体は、全く違う。見た目が非常に似ている、と言うよりも、描いたらこうなりそうだと思うのは、
吸腔目新腹足下目ムシロガイ/オリイレヨフバイ科オリイレヨフバイ属ヒメムシロ亜属アオモリムシロ Reticunassa hypolia
である。但し、名前から北方種と思うのは、現在は間違いである。波部図鑑(吉良図鑑と並称される昭和三六(一九六一)年保育社刊の波部忠重先生の「続 原色日本貝類図鑑」)では、本州東北から北海道を生息域とするのであるが、愛知県の公式の「レッドデータブックあいち2020動物編」の中の、同種のページ(PDF)の「世界および国内の分布」の項を見ると、『本種の分布域は従来、三陸以北、北海道の潮間帯から潮下帯(例えば, 土屋, 2017)と言うように、北方系種と考えられ、北海道以南には近似種のクロスジムシロ』(Reticunassa fratercula )『が分布するとされる』『ことが多かった。しかし』、その後の研究で、『本種の分布域は南側に広く、日本海側は山口県、太平洋側は三重県(伊勢湾湾口部)まで分布する事が明らかとなった。伊勢湾湾口部沿岸(三重県側)には本種の健全な個体群の生息地が比較的多く現存している。クロスジムシロは、済州島(韓国)に分布して』おり、『また、本種と近似した標本が』「新原色韓国貝類図鑑」(閔・二〇〇一年)『に図示されているが、画像だけでの判断は難しく、本種が韓国に分布するかどうかは検討を要する。また県下での本種の垂直分布は潮間帯の中潮帯付近に限定されており、潮下帯には生息していない』とあることから、本種の生息域は日本海側では本州の端まで、太平洋側は伊勢湾まで、遙かに南まで下がることが明らかにされているのである。「生息地の環境/生態的特性」には、『本種は外洋に面した潮通しの良い内湾の潮間帯(中潮線付近)の岩礁周辺の砂溜まりで小型海藻の基部や岩礁の周囲などに生息する。また本種の生息環境には陸域からの淡水の滲みだしがある場合が多い。本種の生息できる場所は、貝類の多様性が高い。腐肉食性で、死肉などに集まることがある』とあり、愛知県だけが鋭く「絶滅危惧Ⅱ類VU」に指定している。パンダがもて囃され、地味な連中がつぎつぎと絶滅の危機に瀕していることを我々は深く肝に銘ぜねばならない。]
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