毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 浦打貝(ウラウツガイ) / ウラウズガイ
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。本見開きはこれが最後となる。]
浦打会(うらうつがい) 【二種。】
「六々貝合和哥」
左九番 浦打貝
「夫木集」
田鶴さわく芦のもと葉かき分て親隆
浦ウツ貝をひろひぬるかな 「後歌仙集」同歌。
[やぶちゃん注:二種とするが、和名の発音に近似性と、上方個体の下方ががたがたしているのは、本来、周縁に歯車状に突き出ていたはずの短い突起が摩耗したものではなかろうか。とすれば、少なくとも上の個体は、
腹足綱古腹足類ニシキウズ目ニシキウズ上科サザエ科サザエ亜科ウラウズガイ属ウラウズガイ Astralium haematragum
を比定候補としてよいように思われる。下方は殻表面の色彩が鮮やかでちょっと躊躇するのだが、殻頂が強くボコっと突き出ているのは実はウラウズガイに特徴的な形状である。本種は殻高約二センチメートルの円錐形を成し、地は淡い桃紫色を帯びた象牙色であるが、生体画像をネットで見たところ、螺層への付着藻類などで個体は多彩であることが判り、当該ウィキを見ると、『他の巻貝に比べてマダコに捕食されにくく、日中でも隠れずに岩礁の表面に出ており』、昼『間の移動距離が短い』とあるのは、形状が岩礁に似ており、しかも、殻表面を多彩に彩ることで、タコ類から巧みにカモフラージュ(擬態)している可能性が窺え、『この下方個体の赤斑もアリではないか?』と私は感じたのである。『粟島(新潟県)以南・房総半島以南の潮間帯から水深』二十メートルまでの『の岩礁に生息する』とあった。
「六々貝合和哥」さんざん出た「六々貝合和歌」である。国立国会図書館デジタルコレクションの原本の当該歌はここ。
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左九 うらうつ貝
「夫木」
田靏さはくあしのもと葉をかき分て
親隆
うらうつ貝のをひろひつる哉
*
これ、しかし、「日文研」の「和歌データベース」を見ると(13101番)、作者は「読人不知」となっており、
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たつさはく あしのもとはを かきわけて
うらうつかひを ひろひつるかな
*
となっている。さて、この作者であるが、本「梅園介譜」の別人の写本のこちらでは、「敦隆」となっている。しかし、「夫木和歌抄」の作者には「敦隆」という名はなく(平安後期の官吏で歌人に藤原敦隆(?~保安元(一一二〇)年)はいる。博学で知られ、「万葉集」の歌を分類して「類聚(るいじゅ)古集」二十巻を編集している)、前参議藤原親隆の歌が三十一も採られてある。「親」の崩し字は「敦」の崩しによく似ている。さればここは、誤りであるが、「親隆」と私は判読したものである。]
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