毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 雀貝(スヽメ貝)・簑貝 / モクハチミノガイ・ミノガイ或いはユキミノガイ或いはミノガイ類の一種
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。右下方を、一部、マスキングした。]
雀貝【三種。】
「福州府志」、
石磷【「すゞめ貝」。又、「簑貝」。「すいそ貝」。「千鳥貝」。白色の者を「雪雀」と云ふ。】
此の者、鰒(あわび)の殻に附きて生ず。
「六々貝合和哥」
右十番
「夫木集」
波よする竹の留りの雀貝
うれしき世にも相にける哉
[やぶちゃん注:異名の一つと、形状から、
斧足綱翼形亜綱ミノガイ目ミノガイ科Limidae或いは Lima属のミノガイ類
を三種の限定候補とした。このうち、上部の二個体は、その明るい輪状の褐色の光彩から、
モクハチミノガイ Lima zushiensis
を有力候補と出来ようか。左端はその一片の内側かも知れない(左に褐色痕が僅かに見える)。
一方、右の二個体は孰れも真白であり、右側は殻の内側らしいが、構造がよく判らない。左の白い個体は全体が円形に近く、しかも輪状肋が非常に強く見える形状に、やや不審はあるが、この本体自体の白さは(生体の外見ではない)、
ロウイロミノガイ Lima fujitai
ウスユキミノ Limaria hirasei
ユキミノガイ属ユキミノガイ Limaria basilanica
などが候補となろうか。和名の「簑貝」、ミノガイLima vulgaris は放射肋が強過ぎ、ここでは候補には挙げ難く、特に輪状肋がよく見えるというのは、ウスユキミノかも知れない。
「福州府志」清の乾隆帝の代に刊行された徐景熹の撰になる福建省の地誌。『石磷形如箬笠、殼在上、肉在下。』とあるのを中文サイトで発見したが、この叙述が正しいとすると、これは笠型をした腹足類ということになり、少なくとも、私の比定した種群とは無縁である。
「すいそ貝」漢字表記不明。
「千鳥貝」片殻の形状からは腑に落ちる。
『白色の者を「雪雀」と云ふ』同前。
「此の者、鰒(あわび)の殻に附きて生ず」これはやはり、先の注に出した笠型形状の亡霊が、またぞろ、出現してくるのだが、これは、梅園が実際に見て、剝してこれらの個体を得た感想とは、私には思われない。そういう話を聴いた、しかし、この種ではない、ということにしておく。もし、それが正しいとなれば、比定はスタートに戻ってやり直しが必要だからである。
「六々貝合和哥」さんざん出た「六々貝合和歌」。国立国会図書館デジタルコレクションの原本の当該歌はここ。
*
右十 雀貝
「夫木」
なみよする竹のとまりのすゝめ貝讀人不知
うれしき世にもあひにける哉
*
因みに、同書の貝合せの図は、ここの左の中央下方なんだが、ウヘエ!? ヤバいねぇ、形が。ミノガイどころじゃない。マジ、スズメそっくりだもん! でも、これって、もしかすると、例のイソチドリに似てねえか?]
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