毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 キズ貝 / カニモリガイ(再出)の欠損殻
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。一部、マスキングした。なお、この見開きの丁は、右下に、『町医和田氏藏』『數品』(すひん)、『九月廿二日、眞写』す、という記載がある。和田氏は不詳だが、ここで町医師であることが判明する。前の二丁のクレジットの翌日であり、その和田某のコレクションを連日写生したことが判る。従ってこれは、天保五年のその日で、グレゴリオ暦一八三四年五月十二日と考えよい。なお、右上のカメノテは二〇一八年五月二十八日に既に電子化注している。]
キズ貝
「前歌仙」内三十六の内
「夫木」
與謝(よさ)の海に古きくだけの破(や)れ貝も
捨ゑる數に又まじりぬる
[やぶちゃん字注:「捨」はママ。ド素人が見ても「拾」の誤字。]
[やぶちゃん注:これは、
腹足綱前鰓亜綱中腹足目オニノツノガイ超科オニノツノガイ科タケノコカニモリ属カニモリガイ Rhinoclavis kochi
の波間に風化した欠損殻であろう。既に『毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 苧手巻貝(ヲダマキ) / カニモリガイ・アサガオガイ』で描いているが、ここでは、かなり、力(りき)が入って、細かな部分まで精緻に色を再現している。寧ろ、これは風化した結果として、殻下層の多色の色がより鮮やかに出たものと思われ、それだけに梅園も腕が鳴ったのであろう。
「與謝(よさ)の海に古きくだけの破(や)れ貝も捨ゑる數に又まじりぬる」これはちょっと困った。国立国会図書館デジタルコレクションの「貝盡浦之錦」に載る「前歌仙三十六種和歌」のそれは、
*
破 介(われかい) 左十六
「夫木」
和哥(わか)の浦(うら)にふるきくたけののやれ貝も拾(ひろ)へるかずに又(また)まじりぬる
*
であるからであり、また、「日文研」の「和歌データベース」の「夫木和歌抄」をみると、藤原信実の一首として(13095番)、
*
わかのうらに ふるきくたけの われかひも ひろへるかすに またましりぬる
*
とあるからである。にしても――「捨」とやらかす梅園は――かなり……イタイわ……]
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