萩原朔太郎 未発表詩篇 無題(笊や味噌こしの類ではない。……) / 萩原朔太郎 未発表詩篇(正規表現)全電子化注~完遂
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笊や味噌こしの類ではない。
長い歲月のあひだ
おれは臺所に獨りで棲んでた。
煤ぽけた天井で裏で
おれの老ひた母親が歌つてゐた。
ああ いつまでも――悲しい歌だ。
窓天窓の向ふに
星が見えてる。
それからまた長い間、默りこん沈默して、日曆のめくりゆく、人間界の塑史が過ぎた
ああすべて――過去の日を
逝きてかへらぬ日の嘆き→日の思ひ出 日の思ひ出に*の嘆き//日の夢は*
[やぶちゃん注:「*」「//」は私が附した。二つのフレーズが並置残存していることを示す。]
夏→晚の 息も絕えなむ君が接吻
その日、
太陽のかがやける、岩の 赫土の上
ああ息も絕えなむ その日、君が口吻(くちづけ)。
干潮の井戶のある町のほとりで
ああ許せ、息も絕えなむ 君が口吻 口吻を。
[やぶちゃん注:底本は筑摩版「萩原朔太郞全集」第三巻の「未發表詩篇」の校訂本文の下に示された、当該原稿の原形に基づいて電子化した。表記は総てママである。但し、後ろから三行目の下線は底本では、右傍線で、朔太郎自身がふったものである。編者注があり、『本稿には以下がない』とする。
以上を以って、筑摩版全集の「未發表詩篇」及び『草稿詩篇「未發表詩篇」』の正規表現での全電子化注を完遂した。始動時に述べた通り、過去に、独立して電子化したものや、注の中で電子化したものがあり、底本の順列では並んでいないが、探して戴ければ、総てがブログ・カテゴリ「萩原朔太郎」及び「萩原朔太郎Ⅱ」のどこかに、必ず、電子化されてある。]
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