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2022/05/06

只野真葛 むかしばなし (51) 久々の真葛怪談!

 

一、卯野元的(うのげんてき)といふ人、有(あり)し。中通醫師なり。築地邊、旗本衆などへ出入し、工藤家へも常に出入せしが、ばゞ樣など諸見物に御いでの時、つれに成(なり)てありきし人なり。

 其人の咄しに、向(むかひ)、築地に、二千石ばかりの旗本衆、有し。大ひやう・大力にて、すなどりを好み、遠網打(とほあみうち)の名人、廿間餘に打出(うちだ)されしが、漁師も及ばざりし、となり。一月には、二、三度づゝ、御勤の暇(いとま)には、漁にいでゝ樂(たのし)まれしとぞ。

 あるひ、例の如く、漁に出(いで)られしが、ちと、刻限、早かりしに、奧方も、おいでの後に、又、床に入(いり)て、休まんとせられしに、夜が明(あく)るや否や、

「お歸り。」

と云(いふ)音(こゑ)す。

『誠(まこと)ならじ。』

と、おもはれしに、實(まこと)にかへられたり。

「風もなし、天氣はよし、何故(なにゆゑ)。」

と問(とふ)に、顏色、土の如くにして、無言なり。

 家内、いぶかりて、手をかへ、品をかへて聞(きく)に、さらに其故(そのゆゑ)をかたられざりしとなり【是より、つり道具を、みな、すてゝ、漁をやめられし、となり。】[やぶちゃん注:底本に『原頭註』とある。]。

 元的も出入(でいり)にて、殊にしたしくせし故、年をかさねて、事にふれつゝ、ゆかしければ、

「もふ、お咄被ㇾ成(はなしなられ)てもよさそうなもの。」

などゝ、まじめにも聞(きき)、をどけにも聞仕(ききしまはし)たりしが、一生、其故を口外(こうがい)へいださで、果(はて)られしとぞ。

 語らではてられしと云(いふ)事は、ワ、築地に居(をり)し内(うち)、聞(きき)しことなりし。

 然るを、數寄屋町へ引(ひつ)こして後、善助樣、

「船頭の隱居ぢゞに聞(きき)し。」

とて、其故を、御はなし被ㇾ成候。珍しきことなりし。

 老人曰(いはく)、

「わたし共も、海の上を渡世にしてゐるものだけれども、氣味の惡ひ事に逢(あひ)しは、久しきあとの事なりしが、築地の殿樣と、二人、舟にのつて出た所が、ちと早くて夜が明(あけ)やしなんだ。舟をかけてゐたら、何だか舟のわきに付(つい)てゐやしたが、死人(しびと)のやうで有(あつ)たから、漕(こぎ)ぬけやふとおもつて、櫂(かい)で、ついてやつて、二十間ばかりわきへ行(ゆき)やした【漁舟《りようせん》にて出懸(でがけ)に死人にあへば、其日の「けち」として、まづまづ、無言にてみぬ顏してつきだしてにげるとなり。】[やぶちゃん注:底本に『原頭註』とある。]。所が又、下から「ざぶり」と、ういて出(で)た物が有故(あるゆゑ)、二人ながら、おもはず、見たら、女の死人さ。少し夜が明やした。『いまいましい』と思(おもつ)て、また、つきだそうとしたら、櫂が、つきはづれやした。其時、死人が「にこにこ」と笑(わろう)た顏の、いやな事、「ぞつ」として、そこにゐられぬから、其日は歸りやした。あんな氣味のわるい事は、ござりません。それから殿樣も漁を休(やすみ)さしつたし、私も遠(とほ)あるきを、やめました。」

と語(かたり)し故、其事は知れたり。

「少し、旗本衆の胸に、當りし事、有しならん。」

と被ㇾ仰し。すべて舟の中には、あやしき事、あるものなり。

[やぶちゃん注:久々の怪談実話である。聴き書きで、最後に老漁師の告白形式をとり、非常にリアリズムがあり、非常に優れている。当時の口語体が再現されているのも興味深い。真葛の怪談はまっこと、「キョワい」。似たような話であるが、幸田露伴の「幻談」なんか、足元にも及ばないね。

「中通」福島県「中通り」地方。福島県中部で、西に奥羽山脈、東に阿武隈高地に挟まれた太平洋側内陸の地域。その北部は真葛の父平助の仕えた主家、伊達郡を本貫とした伊達氏の領地であった。]

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