ヨハネ默示録筆写夢
この一ヶ月、ほぼ毎日、夢を見る。本未明のそれは印象的であった――
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私は水茎の小筆を持って文語訳譯大正改譯の「新約聖書」の「ヨハネの默示錄」を暗い洞窟の中で机上に書写している。
ところが、
『第三の御使ラッパを吹きしに、燈火のごとく燃ゆる大なる星、天より隕ちきたり、川の三分の一と水の源泉との上におちたり。
この星の名は苦艾(にがよもぎ)といふ。水の三分の一は苦艾となり、水の苦くなりしに因りて多くの人死にたり。』
に至って、洞穴の内は水が満たされ、その水中で私は息が出来ないのも厭わず、水中の中空に墨色ではない白い筆跡の立体図のようになった続きの書写をし進めて行くのである。
さうして、かの、
『此の獸(けもの)の數目(かずめ)の義を知るものは智慧あり才智ある者は此の獸の數を算へよ獸の數は人の數なり其の數は六百六十六なり』
を水中に記した瞬間、その文字が白い細い帯となって、メタモルフォーゼし、後ろ足で立ち、上半身を起こし、前足をこちらへ垂らした、僅かな黒い縞をもった白虎となって、私を凝視していた。その瞬間、私は、
『――李徴――であるな……』
と思い、優しく笑った。
その白虎の眼の輝きの向こうに、私は私の古い教え子のある男子の優しい視線を感じ、寧ろ、心が落ち着くのを感じたのだった……
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覚醒は午前一時五十分であった。続きを見たかったが、それから五時半の起床まで、半覚醒が続き、それは叶わなかった。
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