毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 米螺 / ミルクイの子貝
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。なお、この見開きの丁もまた、右下に、梅園の親しい町医師のコレクションからで、『此』(この)『數品』(すひん)『和田氏藏』、『同九月廿二日、眞写』す、という記載がある(前二丁と同日である)。従ってこれは天保五年のその日で、グレゴリオ暦一八三四年五月十二日となる。]
米螺【漢名。】 小貝
[やぶちゃん注:これも如何にもぼんやりした、しょぼくれた感じで、電子化する気を全くそそらせないものであった(こいつも一ヶ月のペンディングの相手であった)。そもそも中国名で「米螺」というのが、大きく躓く。「螺」は、今も昔も、中国でも日本でも、専ら貝殻が螺旋形を成す腹足類、或いは、巻いているように見える貝類などの総称であって、二枚貝にこの字を用いることは、極めて稀れだからである。さらに、試みに調べてみたところが、「米螺」という漢名は、明の明後期の政治家・学者の屠本畯(とほんしゅん 一五四二年~一六二二年)撰の「閩中海錯疏」(福建省(「閩」(びん)は同省の略称)周辺の水産動物を記した博物書。一五九六年成立)で、巻下の「介部」に「米螺小粒似米肉可食」とあるのを発見した。この部分、前後にあるのは、明らかに「螺」=巻貝であり、何を以って梅園がこの図の二枚貝(にしか見えない)の漢名と断言したのかも甚だ不審なのである。ともかくも「米螺」は比定同定には無効な名である。初めは、「小貝」とするし、禿げちょろげた感じから、『シジミか?』とも思ったのだが、シジミは江戸の庶民の常食するお馴染みの貝であり、それを「米貝」という漢名を出すだけというのも、如何にもおかしいから、あり得ない。ともかくも、見たくもないこの朧な図を凝っと見つめてみた。すると、三つの特徴が挙げられると思う。それは、
①殻頂が、あたかも潰れて欠けたかのように、楕円状に白くなっている点。
②よく見ると、向かって右側の殻縁が有意にカットしたように直線になっており、左側の同じ部分も僅かに直線的に見える点。
③殻表面に同心円脈が多数確認出来、その間の部分が色違いに描かれている点。
である。そこで閃いた。特に②が、右が水管孔であるとすれば、この断ち切った感じが説明し得るし、その貝はしばしば殻頂が禿げたように白く、殻辺縁に向かって殻頂に近い部分も、有意に白っぽく、その白い部分を同心円脈が不規則に黒く仕切っているからである。則ち、
斧足綱異歯亜綱バカガイ科オオトリガイ亜科ミルクイ属ミルクイ Tresus keenae
の子貝に比定したい。]
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