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2022/05/16

「南方隨筆」底本正規表現版「俗傳」パート 「イスノキに關する俚傳」

 

[やぶちゃん注:本論考は明治四四(一九一一)年十月発行の『人類學會雜誌』二十七巻七号に初出され、大正一五(一九二六)年五月に岡書院から刊行された単行本「南方隨筆」に収録された。

 底本は同書初版本を国立国会図書館デジタルコレクションの原本画像ここが冒頭)で視認して用いた。但し、加工データとしてサイト「私設万葉文庫」にある電子テクスト(底本は平凡社「南方熊楠全集」第二巻(南方閑話・南方随筆・続南方随筆)一九七一年刊で新字新仮名)を加工データとして使用させて戴くこととした。ここに御礼申し上げる。

 実は、本篇は「選集」版を「イスノキに関する里伝」として古くに公開しているが、今回のものが、正規表現版となる。]

 

    イスノキに關する俚傳

 

 「イスノキ」 Distylium racemosum Sieb.et Zucc.は、九州及び熊野等、暖地產の常綠樹にて「マンサク科」に屬す、ヒヨンノキとも呼ぶ、倭漢三才圖會卷八四に云く、其葉面如子者脹出、中有小蟲化出、殼有孔口、吹去塵埃爲空虛。、大者如桃李、其文理如檳榔子、人用收胡椒秦椒等末、以代匏瓢、故俗曰瓢木、或小兒戯吹之爲笛、駿州多有之、祭禮吹此笛供奉于神云々、紀州西牟婁郡稻成村大字糸田に、大なるイスノキ有り、俗に疣の木と稱す、年々小さき網窠蟲[やぶちゃん注:「まうくわちゆう」。]其葉に子を產付け、上記の蟲窠(沒食子)を生ずる、初め其狀頗る疣に類する故也。疣を病む者、此木の側らなる地藏の石像に祈り、其小枝を折り、葉にて疣を撫で、捨て歸るに必ず平癒すと傳ふ、疣が人體を離れて木に徙る[やぶちゃん注:「うつる」。]と云ふ、又紀州の里俗、疣有者、棒を己が身と木との間に、橋の如くに渡し、「疣橋渡」[やぶちゃん注:「いぼ、はし、わたれ。」。]と三度唱へ乍ら、指にて木を輕く打つて橋を渡るに擬すれば、疣速かに癒ゆ、別に何の木と定りたる事無しと云ふ、英國にも、ハンノキの芽を疣の數だけ取て、之を埋むれば、忽ち斯の患を除くてふ事 W. G. Black, ‘Folk-Medicine,’ 1883, p.57 に見ゆ。思ふに此れ等は、最初諸木の葉に生ずる蟲窠の疣樣なるより、人の疣を樹に移し得と信ずる事、件の糸田の疣の木に於るが如くなりしより起れるならんか、支那の先王の八音、金石糸竹匏土革木の中に、土の樂器は壎[やぶちゃん注:「けん」。]なり。和漢三才圖會卷十八に、事物起原云、世本壎謂暴辛公所造者非也、德音之音而聖人作爲也、拾遺記言、庖犧爲壎、蓋壎燒土爲之、大如鵝、卵鋭上平底似稱錘六孔と有り、白虎通に、其卦は炊に中り、其方は西南に位すと云り、其圖を視るにヒヨンの笛に似たり、其始めは斯る蟲窠を吹きしより起りしかと惟はる[やぶちゃん注:「おもはる」。]、十七年計り前、大英博物館に近き店に、不斷斬新の翫具を賣出す所有り、壎の圖に酷似せる、赤き土製の樂器に、音譜と使用傳授書を添え賣出せしを見るに、ocarina と云ふ物也、因て手近き字書類典抔を搜せしも見當らず、ウエストミンスターの學僧兼飮仙「ヂーン、ハーフヲード」に尋ねしに、是れは支那の壎如き古樂にも非ず、聖作にても無し、ほんの俗謠に合せて兒童の翫ぶ具也と答えられし、昨年出板の大英類典卷十九、九六五頁に、オカリナの短き一條有り云く、伊太利創製の器にて、兒戯具又奇品たるに過ぎず、但し合奏に用ゆべく譜曲を作れる者は有り、普通に十孔を有す云々と、去れば壎と何の關係も無き者なり、愚案に壎唐音ヒヱン、イスノキのヒヨン共に其鳴る聲に基ける名たる事、吾邦のビヤボン、ポコンポコン、英語のドラム(太皷)タムタム(拍皷)に等しきもの歟、序でに述ぶ、那智山と高田村の間だに、烏帽子岩とて甚だ淋しき處有り、魔所の由、昔し尾張で最上の陶器を燒くに、イスノキの灰を土に和するを要し、此所にイスノキ多ければとて採りに來るを常とせり、或る時其使一人、此岩に登り四邊を觀察して、申の刻を過せしに、周圍の草木風無きに自ら動き出しければ、狼狽して逃げ還れりと、咄しを聽て予暮に及んで獨り其處に行き見しに、果して風吹かずに、水楊[やぶちゃん注:「かはやなぎ」。]コアカソ抔動搖して止まず、氣味惡きを我慢して詳察せしに、叢下に多き細流[やぶちゃん注:「ほそながれ」。]に、水楊の細根夥く[やぶちゃん注:「おびただしく」。]浸り居り、水之に激して小木皆搖けるなり[やぶちゃん注:「ゆりけるなり」。]、諸國の俚譚に風無くて草木震動すと云ふは、此樣な[やぶちゃん注:「こんな」。]事から速斷して生ぜるなるべし。

   (明治四十四年十月人類第二十七卷)

[やぶちゃん注:『「イスノキ」 Distylium racemosum Sieb.et Zucc.は、九州及び熊野等、暖地產の常綠樹にて「マンサク科」に屬す、ヒヨンノキとも呼ぶ、倭漢三才圖會卷八四に云く……』事前に『「和漢三才圖會」卷第八十四 灌木類 瓢樹(ひよんのき/いす) / イスノキ』を電子化注しておいたので、そちらを参照されたい。

「紀州西牟婁郡稻成村大字糸田」現在の和歌山県田辺市稲成町(グーグル・マップ・データ)。南方熊楠の墓もここにある。なお、熊楠の神社合祀反対運動の濫觴はここの猿神社(さるがみのやしろ:結局、合祀されてしまった)の合祀に発した。

「網窠蟲」「選集」は『網翅蟲』と訂しているが、網翅目はゴキブリ亜目とカマキリ亜目からなり、イスノキに寄生して虫瘤を形成する種はそこに含まれないので、誤りである。築地琢郎氏のサイト「Mushi Navi」のこちらによれば、当該種はカメムシ目アブラムシ科ヒラタアブラムシ亜科 Metanipponaphis 属シイコムネアブラムシ Metanipponaphis rotunda rotunda とある。本文に現われる「gall」虫癭(ちゅうえい=虫瘤)は、同科 Nipponaphis 属イスノフシアブラムシ Nipponaphis distyliicola が作ったものを「イスノキエダナガタマフシ」、同科 Neothoracaphis 属ヤノイスアブラムシ Neothoracaphis yanonis が作ったものを「イスノキハタマフシ」と呼称する。画像はここ(Shu Suehiro氏のサイト「ボタニックガーデン」内)やここ(佐々木玄祐氏のサイト「Gen-yu's Files」内)を見られたい。

「蟲窠(沒食子)」前者は「ちゆうくわ」(ちゅうか)、後者は「もつしよくし」(もつしょくし)と読む。所謂、「虫瘤(むしこぶ)」である。

「ハンノキ」本邦産のそれはブナ目カバノキ科ハンノキ属ハンノキ Alnus japonica var. villosa 。但し、イギリスには本種は自生しないから、ハンノキ属の別種である。ヨーロッパに分布ヨーロッパハンノキ Alnus glutinosa  (英語名:Black Alder)と思われる。

W. G. Black, ‘Folk-Medicine,’ 1883, p.57」グラスゴー出身のスコットランドの古物商で、弁護士・政治家でもあったウィリアム・ジョージ・ブラック(William George Black 一八五七年~一九三二年)の「民間薬」。このページ数は「選集」でも「p.657」で同じだが、「Internet archive」で見る限り、当該原本は全「228」ページで、こんなページはない。そこで,英文テクストを「warts」(疣)で検索してそれぞれの部分を調べた結果、図に当たった。これは(☞)「p.57」の誤りで、その「In Donegal,…」以下の段落に出現することが確認出来た。

   *

If one takes as many buds from an alder bush as one has warts, and buries them, there should soon be a cure.

   *

「八音」以下の「壎」とともに、事前に電子化注した『「和漢三才圖會」卷第十八 樂噐類 壎(けん) / べッセル・フルート(土笛)』を参照されたい。一部、熊楠の引用には不審があったので、訂した。

「匏」「はう(ほう)」。瓢(ひさご)を素材とした楽器の一種で、本邦の笙(しょう)の類から発せられる音。

「白虎通」中国,後漢の班固の編集した書。正しくは「白虎通義」(びゃっこつうぎ)。後漢の章帝が、七九年に、諸学者を白虎観に集め、儒教の経書に関する解釈の異同について討論させ、これを折衷して「白虎通徳論」を作ったが、これに基づいて班固が編集したもの。経書中の主要な事項について、総括した解説がある(「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)。

「ヒヨンの笛」「ひょんの笛」。イスノキ(「ひょんのき」の異名がある)の虫瘤で製した笛。個人ブログ「俳句の迷宮」の「ひょんの笛」を参照されたい。写真もある。

『ウエストミンスターの學僧兼飮仙「ヂーン、ハーフヲード」』不詳。

「ビヤボン」「琵琶笛」「口琴」と書き、江戸時代の子供用の玩具楽器で、二叉にした鋼に針状の鉄を挟んだものを口に含み、振動させて鳴らすもの。

「ポコンポコン」「ポヒン」「ポコペン」「ポッペン」等とも呼ぶ。薄いガラスで出来た玩具。首が長い管になったフラスコ形のもので、底のガラスを薄くし、息の出入によって「ポピン、ポピン」と鳴るようにしたもの。

「タムタム(拍皷)」Tam-tam。金属で作られた大型の打楽器。当該ウィキを見られたい。

「那智山と高田村の間だに、烏帽子岩」(ゑぼしいは)「とて甚だ淋しき處有り」ここ(グーグル・マップ・データ)。サイド・パネルの写真のここと、ここを参照。まさに烏帽子!

「水楊」キントラノオ目ヤナギ科ヤナギ属カワヤナギ Salix gilgiana 学名のグーグル画像検索をリンクしておく。

「コアカソ」バラ目イラクサ科カラムシ連(clade IBoehmerieae)カラムシ属 Boehmeria spicata 同前。]

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