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2022/06/30

曲亭馬琴「兎園小説別集」下巻 問目三條【鳩有三枝之禮、鹿獨、肝煎、著作堂問、答なし。追記雀戰】~(1)鳩有三枝之禮

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションの「新燕石十種」第四では本篇はここから。吉川弘文館随筆大成版で、誤字と判断されるものや、句読点などを修正した。三ヶ条は直に連関しないので、分割する。標題の割注にある通り、馬琴の質問への答えは、ない。]

 

      △著作堂問

實語敎といふものに見えし、鳩有三枝之禮、烏有反哺之孝てふ語は、三尺のわらべなりともしらぬはなし。しかれどもこの語は、何の書より出たりといふものを見ず。解がわかゝりし時、この義をもて、一老先生に問しに、そは譙周が法訓にあり。說郛を見よといはれしかば、いと欲しくて、そのゝち說郛の法訓の條下を披閱せしに、たゞ羊有跪乳之禮、雞有識時之候、鴈有庠岸序之儀、人取ㇾ法焉、といふ語あるのみ【淵鑑類函四百三十六獸部八羊の一にも、亦此語のみを載たり。】。彼先生はこれらの語を覺たがへしにやあらん。そは諳記の失なること疑ひなし。按ずるに、唐書【五十九。】藝文志に譙周法訓八卷、五敎五卷と見えたり。さるを說郛に收めたる法訓は、纔に七則凡二百六十有四言、その楮數一頁半に過ざるのみ。全書既に傳らねば、考索によしなけれども、おそらく法訓より出たる語にはあるべからず。實語敎はむかし叡山の法師の作れりといひ、或は空海の作也ともいへば、件の語は、必佛典より出しにやあらんとばかりにして、何の佛敎に有やしらず。烏に二種あり。はしふとゝ唱るものには反哺の事なし。はしほそは漢名を慈鳥といふ是なり、こは反哺するものゝよし、本草及諸書にいへれど、鳩に禮讓あるよしは、いまだ管窺を得ざるなり。此語の出處をきかまほし。解問、

[やぶちゃん注:「實語敎」(じつごけう)は平安末期から明治初期に至る、まさに約七百年間に亙って使用されてきた道徳の教科書で、弘法大師作とも伝えられるものの、作者・著作年代ともに不明である。五言絶句四十八連から成る。「山高きが故に貴からず」で始まり、行動によって獲得された知識の価値を不朽のものと高揚し、また、学問の必要性を説いている。江戸時代に到って刊本となり、寺子屋の発達に伴って、広く普及した。但し、以下「といふものに見えし、鳩有三枝之禮、烏有反哺之孝てふ語」と続くのだが、実は国立国会図書館デジタルコレクションで、古い注釈附き版本(江戸前期。但し、抄本)を始めとして、三種の全篇の載る活字本(「空海全集」を含む)を見たが、この文字列は、ない。「女実語教」や「童子教」も見たが、ない。これは正直、馬琴に誤りではあるまいか? ともかくも探してみると(多くの辞書は以上の漢文訓点もので引用し、引用元を「学友抄」とするのだが、この「学友抄」なり書物、これ、いくら調べても書誌に当たれない。なんじゃこりゃあ!?)、「慈元抄」という室町後期に書かれた教訓書(著者不詳)にあるのを発見した。国立国会図書館デジタルコレクションの「日本教育文庫 家訓篇」(同文館編輯局編・明治四四(一九一一)年)のここ(左ページ五行目)にあった(但し、「鳩に三枝の禮有、烏に反哺の孝あり」と漢文ではない)。因みに、前者は「さんしのれい」で、「鳩は親鳥のとまっている枝から三本下の枝にとまる」という言い伝えから(そんなことは実際にはしない)、子が親を敬う態度を喩えたもので、後者は「はんぽのかう」(「反」は「応ずること」で、「哺」は「口移しに餌を与えること」)で同じく、「烏(からす)は情け深く、自身が幼い時、六十日の間、口移しに餌をくれた恩を忘れず、老いた親に同じ六十日の間、口移しで餌を与える」という伝承から(同前で、そんなこと、やりません!)、子が親の恩に報いて孝養を尽くすことや親孝行の喩えである。後者は「慈烏反哺」(じうはんぽ:「慈烏」はこの話に基づくカラスの異名)或いは「反哺之羞」(はんぽのしゅう)と言う。カラスの方の出典は、現行では、一般に南北朝時代の南朝梁の初代皇帝武帝(蕭衍(しょうえん) 五〇二年~五四九年)の「孝思賦」を出典とする。但し、彼は仏教を厚く信仰し、菜食主義者であったことから「皇帝菩薩」とも呼ばれ、後に示すように、カラスの方の出典は仏典が元である可能性は皆無ではない。

「譙周」(しやうしう)譙周(しょうしゅう 一九九年~二七〇年)は三国時代から西晋の学者で政治家。

「說郛」(せつぷ)は随筆「輟耕録」で知られる元末明初の学者陶宗儀が、先秦から元までの経・史・小説類千余種を要約した叢書 (全百巻) 。これによって完全な散佚を免れた書も多い。早稲田大学図書館「古典総合データベース」のこちらの版本の巻五十九で、「譙周法訓」が視認出来、ここ(単体画像)の六行目がそれ。

「羊有跪乳之禮、雞有識時之候、鴈有庠序之儀、人取ㇾ法焉」「羊に跪乳の禮有り、雞(にはとり)に識時の候有り、鴈(がん)に庠序(しやうじよ)の儀有り。人、法(はふ)として取るなり。」。羊のそれは、母からお乳を飲むに際して膝まづいてする礼があり、鷄のそれは、時を正確に認識してそれを告げ知らす任務を成し遂げの意であろう。雁の「庠」(現代仮名遣「ショウ」)は学校・学び舎の意であるから、学ぶ者の段階に応じた序列が厳然としてある(雁の渡りの群飛の順序のミミクリーか)という謂いと思う。

「淵鑑類函四百三十六獸部八羊の一にも、亦此語のみを載たり」清の康熙帝勅撰に成る類書(百科事典)。「漢籍リポジトリ」の当該巻のガイド・ナンバー[441-3a]の部分を参照。

「彼」「かの」。

「楮數」「ちよすう(ちょすう)」ページ数。馬琴先生、「大蔵経データベース」で検索してみました。すると、鳩の方は、「鳩」と「三枝」のフレーズ検索では、一つも掛かって来ませんでしたから、仏典説はちょっと厳しいように思います。しかし、「烏」+「反哺」では、以下が挙がりました。

「宗鏡録」(すぎょうろく:五代十国の呉越から北宋初の僧の永明延寿が撰した仏教論書。九六一年成立)『別如何知父母等如慈烏反哺猫狗識人知人嗔喜答此不是……』

「弘明集」(ぐみょうしゅう:南朝梁の僧祐編になる中国の仏教と道教の二教間の論争に関する文章を集めた論書。五一八年成立)『寧有是乎客答但聞慈烏反哺耳相乃悵然自愧失言今子處……』

「廣弘明集」(こうぐみょうしゅう:唐の道宣の編纂になる仏教護法のために書かれた文章を集成。六六四年成立)『紀靈蛇銜珠以酬德慈烏反哺以報親在蟲鳥其尙爾況三才之令人治本歸於三大……』

「北山錄」(ほくさんろく:梓州慧義寺神清撰。儒仏道三教一致の立場に立った論集。八〇六年成立)『土假水土爲増上緣也烏反哺梟反噬蓋前生之行逆順之餘習也橘榮南而枳蕃北……』

「續一切經音義」(遼の希麟著。九八七年成立)『都反說文孝烏也純黑而反哺者曰鳥小而不哺者鵶也下疾溜反考聲云黑色鳥也……』

「妙法蓮華經釋文」(和仏典。平安中期の法相家の学僧仲算撰)『云孝鳥也爾雅云純黑而反哺者也惠雲云亦名老鵶隨口中……』

「理趣經開題」(空海の著)『四印等噵聞林烏微禽有反哺之志泉獺愚獸致祭魚之誠何……』

この内、「弘明集」が最も古く、「孝思賦」を書いた蕭衍は五〇二年生まれであるから、それよりも早い。但し、以上の通りの内容であるから、必ずしも、仏典由来と断定は出来ない。

「必」「かならず」。

「佛典より出しにやあらんとばかりにして、何の佛敎に有」(ある)「やしらず」前々注参照。

「はしふと」スズメ目カラス科カラス属ハシブトガラス Corvus macrorhynchos「和漢三才圖會第四十三 林禽類 大觜烏(はしぶと) (ハシブトガラス)」を参照。次のリンクの項とともに、本文で良安は「本草綱目」の引用で反哺の有無を述べている。

「はしほそは漢名を慈鳥といふ是なり」スズメ目カラス科カラス属ハシボソガラス Corvus corone「和漢三才圖會第四十三 林禽類 慈烏(からす) (ハシボソガラス)」を参照。]

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