毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 小螺・米螺・メシツブ貝・ヲモイ貝 / 同定不能(微小貝類の複数種群)
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。なお、この見開きの丁もまた、梅園の親しい町医師和田氏(詳細不詳)のコレクションからである。その記載はこちらで電子化した。]
小螺 「福州府志」
「米螺」
「メシツブ貝」
「ヲモイ貝」
「大和本草」に『小螺の極めて小にして米粒ほどのなる者』と云ふは、則ち、是れなり。
[やぶちゃん注:微小貝類四個体であるが、例えば、左上のそれや、中央の個体は、明らかに丸みを帯びており、殻頂が尖ってはいないように見えることから、或いは、
腹足綱古腹足目リュウテン科リュウテン属 Turbo
の中の種の稚貝とも見える。
反して、左下の個体は有意に尖がっていることから、
腹足綱吸腔目カニモリガイ上科ウミニナ科ウミニナ属ウミニナ Batillaria multiformis
の稚貝のようにも見えなくはない(ただ螺状が丸みを帯びているのはやや気になる)。
一方、右上の個体は小振りながら、全体がしっかりとした円錐形を成しており、
腹足綱前鰓亜綱盤足目タマキビ超科タマキビガイ科Littorinidae
の一種のように見える(昔、この科のモザイク風の殻に憧れてよく拾い歩いたものだった)。この程度で、私の推理は底をついた。
「福州府志」清の乾隆帝の代に刊行された福建省の地誌。
「米螺」同書の巻之二十六に(「中國哲學書電子化計劃」の影印本で起こした)、
*
米螺【「萬歷府志」、『小粒如米、又有蓼螺、大如拇指、有刺。味辛如蓼。梭螺、殼細而長、文如雕鏤。味佳。竹螺、殼文粗而尾脆。味淸香。泥螺、軟殼、大如指、多涎有膏。醋螺、出洪塘江、去殼、醃之味佳。田螺・溪螺、生水田中。莎螺、尾脆、味微苦。油螺、形如花螺、殼柔。鹽之味美。」。】
*
とあって、夥しい種を含む総称に過ぎないことは明らかになった。中文サイトの「~米螺」の学名を調べると、微小貝どころか、十センチを超える巻貝も含まれており、この「米螺」は単に十分な主食たり得る巻貝というニュアンスであろうと私は考える。なお、「萬歷府志」というのは、本書に先行する明の作者不詳の福建省の地誌で、別に「福州府志萬歷本」と呼ばれる。
「メシツブ貝」微小貝の本邦での古い呼称であろう。
「ヲモイ貝」個人的には歴史的仮名遣が誤っているものの、微小貝群は二枚貝でも、小さく可憐で風情があり、古くからそれらが「思ひ貝」と通称総称されていたとして、はなはだ腑に落ちるものである。
『「大和本草」に『小螺の極めて小にして米粒ほどのなる者』と云ふは、則ち、是れなり』
「大和本草卷之十四 水蟲 介類 螺(巻貝類総説)」の末尾に、『小螺ノ極小ニシテ米粒ホトナルアリ其類多』とあるのを指す。種同定の役には全くたたない。]
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