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2022/08/17

毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 草鞋蠣・コロビガキ  / イタボガキ

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。]

 

「閩志(びんし)」に出づ。

  草鞋蠣(ツウアレイ)【「ころびがき」。】

  「いたぼ」【上總木更津。】

  「いたぼう」【濵川。】

 

Itabogaki

 

一種、洋海中に生じ、形、圓(まどか)にして、大いさ、六、七寸なるを、「ころびがき」と云ふ。一名、「夏がき」【加州。】、「はす子(ね)」【泉州。】、「をちがき」【備後。】、「をちひがき」【備前。】。[やぶちゃん字注:「夏」は底本では異体字のこれ(グリフウィキ)。「はす子」は梅園の書き癖では「ね」であるが、「蓮根」(ハスの地下茎)と「蓮子」(ハスの実の花托)を考えると、後者の方が断然、似ているので、私は「はすこ」と読みたかったが、国立国会図書館デジタルコレクションの「重訂本草綱目啓蒙」の巻之四十二「介之二」の冒頭の「牡蠣」の、ここの左丁の「ハス子」とあったのだが(「子」の読みはない)、所持する「東洋文庫」(島田勇雄訳注)の人見必大「本朝食鑑」(ひとみひつだい 寛永一九(一六四二)年頃?~元禄一四(一七〇一)年)が元禄一〇(一六九七)年に刊行した本邦初の本格的食物本草書「本朝食鑑」の「鱗介部之四」の「介類三十種」の「牡蠣」に同箇所を引いて、『ハスネ』とあった。更に言っておくと、同画像を見て戴くと、これまた、ここに並ぶ異名は、「本草綱目啓蒙」の引き写しであることが判明してしまったよ、梅園先生。]

此れは、海底に特生(とくせい)し、常の蠣(かき)の如くに疂(でふ)にして、石に著(つ)かず。故に、形、正しくして、偏歪(へんひ)ならず。

頌(しよう)の説に『大房如馬蹄』と云ふものにして、「閩書」の「艸鞋蠣(サウケイレイ)」なり。夏月、肉を食ふ。形は大なれども、味は常の蠣に劣れり。

 

  蓋(ふた)の圖[やぶちゃん注:下図右のキャプション。]

 

同十一月、同氏所藏、之れを乞ひて、眞寫す。

 

海の淺き渚(なぎさ)に生(しやう)ず。固まらず、孤(ひと)り生ず。「いたら貝」に似て、丸く、偏(ひらた)し。味、美(よ)からず。又、「いそがき」、「をきがき」、有り。是れ、「ころびがき」の一種。小なる者。

 

[やぶちゃん注:まず、大半の方は、図を見て、

斧足綱ウグイスガイ目イタボガキ科マガキ属イワガキ Crassostrea nippona

を想起するかとも思うのだが、梅園の解説を読むに、貝の軟体部を取り巻く原殻が丸いことを頻りに述べており、最後に「丸く」「偏」平で、しかも「小」さい「者」だと断じている。イワガキも見た目、丸いものもあるが、通常は原殻は長楕円形が多い。しかも貝殻が有意にぶ厚く、そのまま見ても、まさにゴツゴツの転石みたようで、二十センチメートルを超える個体も珍しくない(私は氷見の魚屋で当該サイズの二個体が鎮座している見、買って食い、千葉沖で採れた同サイズのものを行きつけの飲み屋で食べたことがある。私は無類の牡蠣フリークであるが、どうもイワガキだけは例外的に好きになれない。あの柔らかさと脂(あぶら)感というかネットリしたあれが、ダメである)。しかし、この図は明らかに確かに偏平で丸い。しかも梅園は盛んに小さいことを指示している。さらに、殻表面を見ると、翼状に上下と左方向に張り出したそこには、成長肋と放射肋がはっきりと綺麗に形成されており、これはイワガキの殻表面とは全く違う(因みに、イワガキの右殻(一般的に売られる際に上と見える平たい方)の表面に付着しているゴツゴツを全部削ぎ落すと、寧ろマガキのそれに近い)。さすれば、これは、

イタボガキ科イタボガキ属イタボガキOstrea denselamellosa

と比定するものである。大きさは成体で十五センチメートルを超えるが、イワガキと比較するならば小さいと言える。「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のイタボガイ、及び、イワガキのページをリンクしておくので、そちらの写真を見比べられんことを望む。私の記事では、「大和本草卷之十四 水蟲 介類 牡蠣」がよかろう。ぼうずコンニャク氏の解説によれば、「イタボガキ」は「板甫牡蠣」(武蔵石寿「目八譜」による)で、『千葉県内房での呼び名。「いたぼ」は単に「板」なのではないだろうか? すなわち一見、汚れた板きれに見える。またもしくは板葺きの屋根のように板が重なっている』と記しておられる。梅園の『「いたぼ」【上總木更津。】』と合致する。因みに言っておくと、私が最も美味と感じたカキは、アイルランドの田舎で、自転車で売りに来ていた老婦人に。その場で剝いて貰って食べた、小さくて丸い、軟体部が美しい緑色をした、かの幻しのヨーロッパヒラガキ Ostrea edulis であった。

「閩志」明の黄仲昭編纂になる現在の福建省の地誌「八閩通志」(一四九〇年跋)。全八十七巻。福建省は古く略称を「閩」と称したが、宋代に、福州・建州・泉州・漳州・汀州・南剣州の六州と、邵武・興化の二つ軍に分かれていたことから「八閩」とも称した。

「草鞋蠣」(ツウアレイ)中国語の音写。現代中国語では「ツウォ シイエ リィー」。訓ずるなら、「わらぢがき」。言い得て妙だ。

「ころびがき」「轉び牡蠣」。「広辞苑」に『イタボガキの俗称。貝殻は厚く大きく、岩石につかずに小石などに付着して団塊状になって海底にころがっているので、この名がある』とあった。躓いて転ぶカキではなくて、岩礁に附着せず、海底にゴロゴロも散漫に転がっているさまを言ったもの。なお、同辞書では先に『カキの一種。奄美・沖縄諸島以南に分布』が載るのだが、ちょっとこんな名の種は知らない。分布域から言うと、カキ目ベッコウガキ科シャコガキ Hyotissa hyotis かなあ?

「濵川」江戸近辺であるとすれば、現在の東京都品川区東大井の京浜急行立会川駅付近は、当時は海浜で、旧地名を「濱川」と呼んだ。「今昔マップ」のこちらを見られたい。

『「夏がき」【加州。】』「加州」は加賀国(現在の石川県)。これは北日本で現在もこう呼び、関東でもかく呼ぶ。私が中高時代を過ごした富山では、マガキよりもこちらを美味として、「カキは夏のもんじゃ!」と魚屋は言っていた。

「泉州」和泉国(現在の大和川以南の大阪府南西部)。

『「をちがき」【備後。】』「備後」は現在の広島県の東半分。「落ち牡蠣」か。次注参照。

『「をちひがき」【備前。】』「備前」は現在の岡山県東南部と、香川県小豆郡・直島諸島、及び、兵庫県赤穂市の一部に相当する。私は前の「をちがき」とともに、岩から落ちたように小石に附着していることからの命名かと思ったが、サイト「フォートラベル」の「岡山/噂のカキオコ!今が旬 日生五味の市の牡蠣」という記事に、『おち牡蠣』『という網から落ちたもの』を言うとあった。「ひ」は不明。

「海底に特生(とくせい)し」「石に著(つ)かず」岩礁に附着せず、海底の砂地の転石に附くという正しい生態を記している。

「疂(でふ)にして」畳のように平べったくて。これも同前で正しい。

「偏歪(へんひ)ならず」イワガキのようにはゴツゴツしていないという点で、以上の二点と合わせて、本種がイタボガキであることを証明している。

「頌」明の李時珍の「本草綱目」がよく引く北宋の博物学者(科学者)で宰相であった蘇頌(そしょう 一〇二〇年~一一〇一年)。字は子容。泉州同安県出身。一〇四二年に進士に登第した。北宋に於て最高の機械学者であったとされる。哲宗の命を受け、世界最初の天文時計「水運儀象台」を設計し、一〇九二年に竣工すると同時に、彼は丞相に任ぜられた。一〇九七年に退官している。思うに、一〇六一年に完成させた「本草図経」中の叙述か。原本は全二十巻だったが、散佚、「証類本草」に引用されたものを元に作られた輯逸本がある(以上は当該ウィキに拠った)。

「大房如馬蹄」「本草綱目」の巻四十六の冒頭の「介之二」の最初にある「牡蠣」の「集解」中にある。「漢籍リポジトリ」のこちら[108-1b]の影印本の六罫の左列に出る。

「閩書」明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」。

「艸鞋蠣(サウケイレイ)」なり。夏月、肉を食ふ。形は大なれども、味は常の蠣に劣れり。

「同十一月」天保六年。十一月は一日がグレゴリ曆では一八三五年十二月二十日で、この月は翌年に跨ぐ。

「同氏」既出既注の倉橋氏。

「いたら貝」先行する「錦貝(ニシキガイ)・イタヤ貝 / イタヤガイ・ヒオウギ」にイタヤガイの異名として出、次の丁にも標題で「イタラガイ」として出る。

「いそがき」マガキの異名として現在も残る。但し、これはマガキに限らず、岩礁帯に附着するカキ類の総称というべきかとも思う。

「をきがき」恐らくは「沖牡蠣(おきがき)」と思われる。関東でイワガキを、この異名でも呼ぶ。]

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