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2022/08/17

毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 拂子貝(ホツスガイ)  / 海綿動物のホッスガイの致命的な海綿体本体部の欠損個体

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。一部をマスキングした。標題のみ。クレジットもない。漁師が底引きで引き揚げたものであろう。]

 

拂子貝(ほつすがい)

 

Hotsugai

 

[やぶちゃん注:これは、「蛤蚌類」ならぬ、

海綿動物門六放海綿(ガラス海綿)綱両盤亜綱両盤目ホッスガイ科ホッスガイHyalonema sieboldi 

であるが、図で言うと、柄の下方になくてはならない円筒型のコップ状の体部が全く欠損している。生態から言うと、これは倒立して描かれてしまっている。まあ、深海産で実際に生きた個体を当時見ることは不可能であったから、致し方ない。本体部は十~十五センチメートルのコップ状(その中腔は隔壁が縦に生じており、内部が四室に分かれている)を成し、その下部にガラスと同じ珪質の繊維でできた細長い柄の下に、長大な骨片のその先はまさにグラス・ファイバー様の束(根毛)になっており、それで深海底に突き刺さっているのである。英名は“glass-rope sponge”とも呼び、柄が長く、僧侶の持つ払子(「ほっす」は唐音。獣毛や麻などを束ねて柄をつけたもので、本来はインドで虫や塵などを払うのに用いた。本邦では真宗以外の高僧が用い、煩悩を払う法具)に似ていることに由来する。この根毛基底部(即ち柄の部分)には「一種の珊瑚蟲」、刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱イソギンチャク目イマイソギンチャク亜目無足盤族コンボウイソギンチャク(棍棒磯巾着)科 Epizoanthus 属カイメンイソギンチャク Epizoanthus fatuus が着生する。荒俣宏氏の「世界大博物図鑑別巻2 水生無脊椎動物」のホッスガイの項によれば、一八三二年、イギリスの博物学者J.E.グレイは、このホッスガイの柄に共生するイソギンチャクをホッスガイ Hyalonema sieboldi のポリプと誤認し、本種を軟質サンゴである花虫綱ウミトサカ(八放サンゴ)亜綱ヤギ(海楊)目 Gorgonacea の一種として記載してしまった。後、一八五〇年にフランスの博物学者A.ヴァランシエンヌにより本種がカイメンであり、ポリプ状のものは共生するサンゴ虫類であることを明らかにした、とあり、次のように解説されている(アラビア数字を漢数字に、ピリオドとコンマを句読点を直した)。『このホッスガイは日本にも分布する。相模湾に産するホッスガイは、明治時代の江の島の土産店でも売られていた。《動物学雑誌》第二三号(明治二三年九月)によると、これらはたいてい、延縄(はえなわ)の鉤(はり)にかかったものを商っていたという』。『B.H.チェンバレン《日本事物誌》第六版(一九三九)でも、日本の数ある美しい珍品のなかで筆頭にあげられるのが、江の島の土産物屋の店頭を飾るホッスガイだとされている』とある。……私は四十五前の七月、恋人と訪れた江の島のとある店で、美しいガラス細工と見紛う完品のそれを見たのを記憶している。……あれが最後だったのであろうか……私の儚い恋と同じように……(ホッスガイの画像は例えば、『千葉日報』の二〇一〇年三月十五日附の「ガラス繊維を持つ生物 ホッスガイ 【海の紳士録】」をご覧になられたい)。私の「生物學講話 丘淺次郎 四 寄生と共棲 五 共棲~(2)の2」も参考になる。]

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