曲亭馬琴「兎園小説余禄」 平井權八刑書寫
[やぶちゃん注:「兎園小説余禄」は曲亭馬琴編の「兎園小説」・「兎園小説外集」・「兎園小説別集」に続き、「兎園会」が断絶した後、馬琴が一人で編集し、主に馬琴の旧稿を含めた論考を収めた「兎園小説」的な考証随筆である。
底本は、国立国会図書館デジタルコレクションの大正二(一九一三)年国書刊行会編刊の「新燕石十種 第四」のこちらから載る正字正仮名版を用いる。
本文は吉川弘文館日本随筆大成第二期第四巻に所収する同書のものをOCRで読み取り、加工データとして使用させて戴く(結果して校合することとなる。異同があるが、必要と考えたもの以外は注さない。稀に底本の誤判読或いは誤植と思われるものがあり、そこは特に注記して吉川弘文館版で特異的に訂した)。句読点は現在の読者に判り易いように、底本には従わず、自由に打った。鍵括弧や「・」も私が挿入して読みやすくした。踊り字「〱」「〲」は正字化した。]
○平井權八刑書寫
延寶七未年十一月三日、行。
一 平井權八【年不ㇾ知。】。是は無宿浪人。
二 此もの儀、武州於二大宮原一小刀賣を切殺、金銀取候者、品川において磔、
札文言
此者、追剝の本人、其上、宿次の證文、
たばかり取、剩、手鎖を外し、缺落仕候
に付、如ㇾ此に、おこのふもの也。
十一月日
[やぶちゃん注:「延寶七未年十一月三日」グレゴリオ暦一六七九年十二月三日。
「行」処断と磔(はりつけ)を「おこのふ」の意であろう。
「大宮原」現在の埼玉県さいたま市大宮区であろう(グーグル・マップ・データ)。
「札」高札。
「宿次」「しゆつぎ」で、思うに、小刀売りを刺殺した際、彼が持っていた関所或いは宿場を継いで商いすることを公的に認めた証文であろう。被告人は無宿浪人であるから、関所はおろか、宿屋でも証明する物を持っておらず、通行は厳しかったから、そのために奪取したのであろう。
「剩」「あまつさへ」。
「手鎖」「てぐさり」。手錠。彼は殺人で捕縛され、その際、持っているはずのない証文を持っていたことが明らかとなり、窃盗も追加された。ところが、手錠を外して、逃亡、再逮捕され、三つの罪によって、かく極刑となったのである。]
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