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2022/08/12

毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 曲貝・マガリ・沙蠶・ジイカセナカ / 固着性ゴカイの虫体

 

[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングし、一部をマスキングした。]

 

Magari

 

「百介圖」

    曲貝【「マガリ」。】

「福州府志」

    沙蠶

     「じいがせなか」

          佐渡。

 

          同年十月二日、眞寫。

 

「大和本草」曰はく、『其の貝、蠣に類す。』と。予、自(みづか)ら、之れを、石决明(あわび)の貝の裏より、得る。則ち、之れを取り、同年九月廿六日、眞寫す。石决明の貝にも、多くは付かず、まれに、之れ、有る。貝の内の肉は、「ごかい」の虫に似て、足、多し。色も相(あひ)同じ。

 

[やぶちゃん注:この解説には、多くの問題(錯誤・誤認)があり、まず、それらを除去しないと、話が進まない。まず、「百介圖」(複数回既出既注。こちらを参照されたい。現物はネット上には見当たらない)を出典とする「曲貝」及び「マガリ」と異名する対象物であるが、これは、解説でそれを受けた形で、貝原益軒の「大和本草」を挙げていることから、これは「大和本草」の「マガリ」と同一物であると梅園が判断していることが判る。而して、それは「大和本草諸品圖下 子安貝・海扇・マガリ・紅蛤 (ヤツシロガイ或いはウズラガイ・イタヤガイ・オオヘビガイ・ベニガイ)」(私の電子化注)であることが判然とする。その図の左丁の上段の「マガリ」である。そこで益軒は(原文を私が訓読したもののみを示す)、

   *

まがり 蠣(かき〕の類。海邊の岩に付きて生ず。其の殻、屈曲す。肉、其の中に在り。味、頗る好し。其の漢名、未だ知らず。

   *

とあり、私はそれを、図と解説文から、

   *

「マガリ」は、「蠣(かき)の類」とするが、誤りで(不定形で、そう捉えた気持ちは判る)、この「マガリ」という名と図と「屈曲す」とあることから、

腹足綱直腹足亜綱新生腹足上目吸腔目ムカデガイ科オオヘビガイ属オオヘビガイ Serpulorbis imbricatus

である。(以下略)

   *

と同定した。これは誰もが納得戴けるはずである。因みに、「マガリ」は同種の古名で、現在でも異名として通用している。そして、無論、ここで梅園が図示したものが、オオヘビガイなんぞではないことも明らかであろう。まず、オオヘビガイは、日和見的に大型化した貝類の殻に附着することはあるかも知れぬが、図鑑類では、潮間帯の岩礁に附着して棲息する。因みに形状が同じくクネクネした全くの別種である、吸腔目カニモリガイ上科ミミズガイ Tenagodus cumingii を想起される方がいるかも知れぬが、同種は棲息場所が特異的限定的で、干潮線下のカイメン類の中に埋もれて群生するから、お話にならないのである(尤も、本種もカキの殻に付いたカイメン中に棲息するケースはある。実際に見つけたこともある)。というより、オオヘビガイもミミズガイもその軟体部はこんな色をしていないし、梅園の『貝の内の肉は、「ごかい」の虫に似て、足、多し』という観察とは全く一致しないから、二種ともに――「退場」――となるのである。

 則ち、梅園は、「大和本草」のそれを、無批判に採用して、本種を「貝」の「カキ」の仲間である、とやらかしてしまったのである。

 そればかりか、梅園は、やらんでいいものを、「佐渡」の地方異名として、ここに「じいがせなか」と添えてしまったのである。この「じいがせなか」は貝類が好きな小学生なら、即座にこの異名を以って確かにそれを正確に言い当てるであろう。それは、

多板綱 Polyplacophora の背面に一列に並んだ八枚の殻板を持ったヒザラガイ(多板)類(標準和名としてはタイプ種である多板綱新ヒザラガイ目ウスヒザラガイ亜目クサズリガイ科ヒザラガイ属ヒザラガイ Acanthopleura japonica に当てられている)

「火皿貝」(一説に、こちらの表記のそれは近代初期の貝類研究家として知られる平瀬與一郎の命名とされ、「煤けた火皿」に似ていることからという)「膝皿貝」(こちらは剥がした際の腹側に湾曲する状態を膝蓋骨(所謂、「膝の皿」)に見立てたという)「石鼈貝」(中国由来と思われ、形がスッポンに似ているからである。現代中国語でも「多板綱」は別に「石鱉綱」である。「鱉」は「鼈」の異体字)彼らを附着している岩や石から剥がすと、丸まる習性があり、その時の丸まったそれから、「爺が背」という異名を持ったのである、因みに、本邦には超深海産も含め、約百種が棲息するが、海浜の岩礁や転石水域に見られるものは二十種ほどである。なお、佐渡でヒザラガイの地方名として「じいがせ」が現在も使われていることは、lllo氏のブログ「ガシマ しなしなやります佐渡ヶ島ホトダイアリ」の「アメ(ジイガセゴウ)(あめ)」で確認出来る。それによれば、『佐渡の沿岸にも普通にみられ、時には食用にされることもある。岩から剥がすと、腹側の方に曲がるので「爺が背」の名が付けられた。アメ(阿女)という呼び名は現在用いられていないが、ジイガセは、使われている。ジイガセゴウの名は、『佐渡州物産』(または『佐渡産物志』『佐州圖』など)、江戸中期享保年間に編纂された『諸国産物帳』の一つや、栗本丹洲の表わした『千蟲譜』文化八年(一八一一)に載せられている。ゴウは蜈蚣(ムカデ)に似ていることに由来する。』とある。「ゴウ」も解明したところで、これも――「退場」――して頂く。

 さて。ここで、退場させなかった部分のみを以下に示すと、

   *

「福州府志」

    沙蠶

          同年十月二日、眞寫。

予、自(みづか)ら、之れを、石决明(あわび)の貝の裏より、得る。則ち、之れを取り、同年九月廿六日、眞寫す。石决明の貝にも、多くは付かず、まれに、之れ、有る。貝の内の肉は、「ごかい」の虫に似て、足、多し。色も相(あひ)同じ。

   *

となって、いかにもすっきりしてきたじゃないか! 焦らずに、まずは語注を示すと、

・「福州府志」複数回既出既注。清の乾隆帝の代に刊行された福建省の地誌。巻之二十六に出る。「中國哲學書電子化計劃」の乾隆本の影印本で電子化すると、

   *

沙蚕【似土筍而長。「閩書」、『生海沙中如蚯蚓。」。】 土鑽【似沙蚕而長。】

   *

とある。「沙蠶(沙蚕)」は、ここでは、

環形動物門多毛綱サシバゴカイ目ゴカイ超科ゴカイ科 Nereididae ゴカイ類或いはそれに形状が似た概ね、環形動物門 Annelida に属する各種の総称

であり、「土筍」(どじゅん)は環形動物門の星口(ほしくち)動物 Sipuncula(嘗ては星口動物門Sipunculaとして独立させていた)の一種(複数種)で、中でも特に、中国などで現在も好んで食用とされている、サメハダホシムシ綱サメハダホシムシ目サメハダホシムシ科サメハダホシムシ属(漢名:「土筍」或いは「可口革囊星蟲」)Phascolosoma esculenta を代表種としてよい。詳しくは、『畔田翠山「水族志」 (二四七) ナマコ』の注を参照されたい。「閩書」は明の何喬遠撰になる福建省の地誌「閩書南産志」の略である(これも複数回既出既注)。「土鑽」(どさん)」は同じくゴカイの仲間か、或いは、環形動物の一種と思われる。「鑽」は「穿(うが)つ・掘る」で、海底或いは潮間帯の泥土に穴を穿って住むの謂いであるからである。

・「同年十月二日」前からの続きで、これは天保五年のその日で、グレゴリオ暦一八三四年十一月二日。図の内の右側の二個体の写生日ということであろう。

・「石决明(あわび)」腹足綱原始腹足目ミミガイ科アワビ属 Haliotis に属する種の総称。国産九種でも食用種のクロアワビ Haliotis discus discus ・メガイアワビ Haliotis gigantea ・マダカアワビ Haliotis madaka ・エゾアワビ Haliotis discus hannai (クロアワビの北方亜種であるが同一種説もあり)・トコブシHaliotis diversicolor aquatilis ・ミミガイ Haliotis asinina までを挙げておけば、まずは、よかろう。詳しくは、私の寺島良安の「和漢三才圖會 卷第四十七 介貝部」の冒頭にある「鰒(あはひ)」、及び貝原益軒の「大和本草卷之十四 水蟲 介類 石決明 (アワビ)」を参照されたい。なお、彼はこの前年と、この年の二月にアワビを写生している。『毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 石决明雌貝(アワビノメガイ)・石决明雄貝(アワビノヲカイ) / クロアワビの個体変異の著しい二個体 或いは メガイアワビとクロアワビ 或いは メガタワビとマダカアワビ』を見られたい。

・「裏」は「うち」と訓ずるべきであろう。恐らくは生貝の、「アワビの殻表面から」の意である。

・「同年九月廿六日」グレゴリオ暦一八三四年十月二十八日で、先の二個体を描くより先の、三日前に当たる。思うに、梅園は、この日に魚屋からアワビの生貝を入手し、それを観察するために、海水にアワビを入れておいたものかと推測する。

・「貝の内の肉は」「貝」は梅園がこれを「貝」だと思い込んでいるためからこう言ったのであって、則ち、この図に描いた三体の赤い生物は、アワビの殻に表面に穴を穿って棲んでいたか、或いは自身が形成した「棲管」の中にいたことが判明するのである。

 さて。遂に、この奇体な三個体の生物の正体が見えてきた。それは『「ごかい」の虫に似て』おり、『足』も『多』くあり、その『色も相(あひ)同じ』=「ゴカイにそっくりだ」と言っているのである。いやいや、梅園先生、そりゃ、似て非なるものじゃなくて、広い意味で、ゴカイの仲間なんだと思うよ!

 結論に入る。これらは、無論、「蛤蚌類」ならぬ、貝類に固着して棲息するゴカイ類である、

環形動物門多毛綱ケヤリムシ(毛槍虫)目ケヤリムシ科 Sabellidae・カンザシゴカイ科 Serpulidae・ウズマキゴカイ科 Spirorbidaeの中の一種或いは二種或いは三種

であろう。種まで同定したいが、私はゴカイ類のこうした固着性ゴカイの虫生体の様態や体色を殆んど見たことがないので、これ以上は不可能である。但し、カキ養殖関係の論文を見ると、ウズマキゴカイ属ウズマキゴカイ Neodexiospira foraminosa の附着による害の報告が散見された。少なくともウズマキゴカイの頭部の鰓糸からなる鰓冠は赤い個体がいる。

 なお、実は、当初は早合点して、同じ固着性ゴカイの、色も毒々しい紅色の、

カンザシゴカイ科 Hydroides 属カサネカンザシ Hydroides elegans

を考えたのだが、当該ウィキによれば(太字は私が附した)、『カサネカンザシは、外来種で』、『日本では』、大正一七(一九二八)年の『和歌山県の標本が最も古い記録であり、オーストラリアからの船体付着やバラスト水によって導入されたと考えられる』。一九七〇『年代には太平洋沿岸に』、一九八〇『年代には日本海沿岸に拡散し、現在では本州から南西諸島のほぼ全域に定着している』。『瀬戸内海では』一九六九『年から』一九七〇『年代初めにかけて養殖カキに本種が異常に密生したことがあり、こうした貝類・網・ブイの被害額は数十億円に達』した。『また、発電所や工場などの取水施設に大量に付着し、汚損被害を発生させる。『同様の被害を発生させる近縁種にはカニヤドリカンザシがいる』。『また、貝類のムラサキイガイやミドリイガイ、タテジマフジツボなども、日本各地の湾岸を脅かす厄介な外来種である』。『外来生物法により要注意外来生物に指定されており、日本の侵略的外来種ワースト』百『にも選ばれている』とあったので、違うことを言い添えておく。]

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