毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 馬蹄螺・ムマガイ・馬ノ爪貝・駒ノ爪・アマ貝 / 異種二種で「アマオブネ」と「ウチムラサキ」
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。]
「福州府志」に曰はく、
馬蹄螺【「むまがい」・「馬の爪貝」・「駒のつめ」・「舟貝」。「舟貝」は、亦、別に一種、有り。】
二種。
伊勢二見浦産。
馬蹄螺
古(いにし)へは、「駒の爪」を「あま貝(がひ)」と云へり。今は通(とほ)して「駒の爪」と云ふ。
仰(あふむけ)
府(ふせ)
[やぶちゃん注:貝図のキャプション。「仰」は解説の三行にくっ付いてしまっていて、甚だ紛らわしい。「府」は「臥(ふ)せ」の意で用いているか。「脊」と書くところを誤記したようにも見える。]
好子某、所藏。乞ひて寫す。時に、保六未臘月二日。
[やぶちゃん注:「好子」は不詳。「貝好きの、とある殿方」の意か。]
[やぶちゃん注:ここでは梅園は、別種のものと判っていて、確信犯で纏めて描いている。「二種」とあり、キャプションがあるから、上の二つの図は、一個体を仰向けて開口部を上にして描いたものと、同一個体の螺層表面を上にして伏せて描いたもので、同一個体であることが判る。まず、この上の二図の方が手っ取り早く同定出来る。これはもう、形状の特異性と、殻の上面は黒と白のまだら模様から、
腹足綱直腹足亜綱アマオブネガイ上目アマオブネガイ上科アマオブネガイ科コシタカアマガイ属アマオブネガイ
に同定できる。下方のそれは、内側を写しておいて欲しかったが(せめて内側の色を記載して欲しかった。しかし、もしかすると、所蔵者は図からみて、左右の貝殻を合わせて固定しており、梅園は遠慮して、内側を見ていないのかも知れない)、恐らくは「大浅利」の通称がある、
斧足綱異歯亜綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科 Saxidomus 属ウチムラサキ Saxidomus purpurata
であろうと推定する。
「福州府志」これは今まで一貫して清の乾隆帝の代に刊行された福建省の地誌と紹介したものでは、実は、なく(「福州府志乾隆本」と称し、徐景熹の撰になる後続本)、著者不明の同名の明代に先行して書かれた、現在は「福州府志萬歷(ばんれき)本」と呼ばれるものであった。今までのものも、これの勘違いの可能性が出てきたので、後で再度、調べる(先程、検証を総て終えた)。以上は「中國哲學書電子化計劃」の同書を調べたところ、ガイド・ナンバー「365」に(コンマを読点に代え、一部の漢字を正字化し、記号も変えた。下線太字は私が附した。)、
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螺種類不一。曰田螺、曰溪螺。曰香螺、大如甌、長數寸、其掩雜衆香、燒之使益芳、獨燒則臭。「本草」謂之甲香。曰鈿螺、光彩如鈿、可飾鏡背。曰黃螺、殼厚、色黃。曰米螺、小粒如米。曰紅螺、肉可爲醬。曰蓼螺、味辛如蓼。曰椶螺、殼細長、文如雕鍐。曰竹螺、殼文粗、味淸香。曰紫背螺、紫色、有斑點、俗謂之砑螺。曰鸚鵡螺、狀若鸚鵡、堪作酒杯。曰泥螺、殼似螺而薄、多涎有膏、一名土鐵、又名麥螺。曰鴝鵒螺、殼小而厚、黑白。曰馬蹄螺、曰指甲螺、俱以形似因名。曰江橈螺、卽指甲之大者。曰花螺、圓而扁、殼有斑點、味勝黃螺。曰醋螺、出洪塘江、去殼醃之、味佳。曰莎螺、形如竹螺、味微苦、尾極脫。
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これは、どうもアマオブネ、或いは、その近縁種っぽい感じがしないでもない。
『「舟貝」は、亦、別に一種有り』アカガイやサルボウなどで知られる、斧足綱フネガイ目フネガイ科 Arcidae には「~フネガイ」は多く、これだけでは、現行和名では一種に絞ることは不可能である。
『今は通(とほ)して「駒の爪」と云ふ』市井で一般に「駒の爪」の呼称で通っているということ。
「保六未臘月二日」天保乙未(きのとひつじ)六年十二月二日。グレゴリオ暦一八三六年一月十九日。]
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