毛利梅園「梅園介譜」 蛤蚌類 砑螺・ツメタ貝 / ツメタガイ
[やぶちゃん注:底本の国立国会図書館デジタルコレクションのここからトリミングした。一部をマスキングした。本図を以って見開き丁は終わっている。〔 〕は私が添えた訓読。「𨊫」は中文サイトで「乃」の異体字とあった。]
砑螺【「福州府志」。「つめた貝」。】
つめた貝【「てすり貝」。越後新潟。
「あさかほ貝」。】
以上、勢州二見浦産。所藏。
丙申年二月、大生氏、勢刕、大神宮拜詣、帰〔(かへ)るに〕、𨊫〔(すなは)ち〕、土産と爲(な)して、予に之れを送〔れるを〕、眞寫す。
[やぶちゃん注:入手経緯と写生の記事は、梅園にしては、ちょっと書き方が難しくなっているが、謂うところは、「この見開きに描いた個体群は、総て、伊勢の二見ヶ浦産で、現在は私自身の所蔵になるものであるが、もとは私の知人の大生氏(読みは現代仮名遣で「おおばえ」・「おおう」・「おおぶ」・「おおしょう」などがある)が、伊勢神宮を参詣して帰るに際し、土産として私に送って呉れたもので、それを写生した。」ということのように私はとった。
これは殻表が黄褐色ではなく、紫褐色を呈した、
腹足綱直腹足亜綱新生腹足上目吸腔目高腹足亜目タマキビガイ下目タマガイ上科タマガイ科ツメタガイ属ツメタガイ Glossaulax didyma
である。本図譜では、既に一度、「蛤蚌類 片津貝(カタツガイ・ツヘタ貝・ツメタ貝) / ツメタガイ」として登場している。そちらは、比較的知られる黄褐色の個体である。『武蔵石寿「目八譜」 ツメタガイ類』(リンク先は私の二〇一五年六月の電子化注。近縁種を含めて詳細に注を施してある)も、是非、参照されたい。
「砑螺」この「砑」の字は、音「ガ」で「磨く・擦る・艶を出す」の意で、本種の殻表面の平滑であるのを言ったもの。私は個人的に同種の黄褐色のそれは、生体では光沢があるように見え、ついつい拾ってしまう好きな貝である。
「福州府志」明代の「福州府志萬歷本」の方で、著者不明。「中國哲學書電子化計劃」のこちらで、以下の通り、確認出来た(手を加えた)。
*
曰紫背螺、紫色、有斑點、俗謂之砑螺。
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「つめた貝」この和名は「津免多貝」などと搔き、「ツベタガイ」など、異名が多い。詳しくは「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページを見られたいが、その「由来・語源」の項に、「ツメタガイ」は『東京湾周辺での呼び名で』「渚ノ丹敷」『より。語源は不明だが、馬や牛の爪に似ている貝なので「爪貝」なのかもしれない』とある。私は幼少より、何か、本種の光沢が冷たい感じで美しいから、と思い込んでいた。
「てすり貝」前のページにはないものの、同サイトで異名検索すると、「テスリガイ」が掛かってきた。この異名は殻表の平滑な感じから、「手摺(磨)貝」であろう。
「あさかほ貝」これは現在は異名として残っていないか。「朝顔貝」で、アサガオの花の開いた形に擬えたか(あんまり似ていないと思うけどね)。
「丙申年二月」天保七年二月。グレゴリオ暦一八三六年で三月中旬より後。]
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