「和漢三才圖會」卷第二十四「百工具」の内の「千斤(くぎぬき)」
「和漢三才圖會」卷第二十四「百工具」の内の「千斤(くぎぬき)」
[やぶちゃん注:〔○○〕や〔→○○〕は、表字・訓読が不完全で私がより良いと思う表字・訓読、或いは送り仮名が全くないのを補填したものを指す。本篇は、訓点や読みが、かなり杜撰である。]
くぎぬき 千斤
千斤 【久岐奴木俗云万力】
類書纂要云千斤起舊釘之噐
△按千斤方寸半許鐵噐隨透穴別長尺許鐵梃大應穴
嵌之如鐔而鐔與梃之間挾舊釘拔起之千斤万力之
名共取強剛之義矣
一種形如鋏而肥其頭圓以挾舊釘拔之
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くぎぬき 「千斤」。
千斤 【「久岐奴木〔(くぎぬき)〕」。俗に「万力〔(まんりき〕)」と云ふ。】
「類書纂要」に云はく、『千斤は舊釘〔(ふるくぎ)〕を起〔→こす〕の噐〔(き)〕なり。』と。
△按ずるに、「千斤」は、方〔(はう)〕寸半〔(すんはん)〕許〔(ばかり)〕の鐵噐〔→にして〕、隨て〔→ふに〕穴を透し、〔→したり。〕別に長さ尺許〔→(ばかり)の〕、鐵の梃〔→(てこ)あり〕。大いさ、穴に應〔→じ〕、之れを嵌(は)めて鐔(つば)のごとくにして、鐔と梃の間に、舊釘(ふるくぎ)を挾んで、之れを拔〔→き〕起〔→こす〕。千斤・万力の名共〔(なども)〕、「強剛」の義を取〔→るなり〕。
一種、形、鋏のごとくにして、肥〔(ふとく)〕、其の頭〔(かしら)〕、圓く、以つて、舊釘を挾〔(はさみ)〕、之れを拔く。
[やぶちゃん注:図の、右側のものは、多くの人が実際に見たこともあるもので、使用法も「一種、形……」以下の解説なしでも判るのだが、左手のそれは、訳さないとちょっと判り難いかも知れない。現行ではこうした分離した釘抜きというのを見ることはまずない(私自身も見たことがない)。『「千斤」は、……』以下を判り易く敷衍訳しておく。
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「千斤(くぎぬき)」は、四方が一寸半ほど(約四センチ五ミリ)の正方形の鉄器で、中央に穴が開いている。それとは別に、長さ一尺ほど(約三十センチ)の鉄の棒状(一方が箆(へら)状に平たくなっている)の挺(てこ)があって、その箆型の部分の太さは、前者の穴の大きさに、丁度、応じている。まず、刀の鐔のように、これを嵌め込み、前者と後者との間に抜くべき対象である古釘を挟み込んで、而して、梃子(てこ)の原理を用いて、抜き超こすのである。
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「類書纂要」二種ある中国の類書(百科事典)。一つは十二巻本の明の璩崑玉(きょこんぎょく)の撰。今一つは、三十三巻本の清の周魯の撰で。一六六四序刊。]
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