鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「九 鳩の愛執の事」
[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。なお、所持する一九八九年刊岩波文庫の高田衛編「江戸怪談集(中)」には、本篇は収録されていない。
なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。
本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。踊り字「〱」「ぐ」は正字化した。適宜、オリジナルに注を附す。]
九 鳩の愛執の事
寬永十年の比(ころ)、さる家中、伴(ばん)の市右衞門(いちゑもん)と云ふ人の庭に、鳩來(きた)るを、則ち、鐵砲にて打殺(うちころ)す。頸(くび)に當りて、頭、なし。
其後(そのゝち)、又、鳩來る。是をも前の如く打ち、毛をむしらするに、脇の下に鳩の頭(かしら)を挾みて有り。
日數(ひかず)を計(はか)るに、今日は、先月、鳩を打ちたる日なり。
是より、驚きて、殺生を休(や)めけり。
市右衞門傍輩衆、確(たしか)に語るなり。
[やぶちゃん注:この話、短いが、後発の怪奇談集に類話がさわにある。例えば、先般、電子化した『西原未達「新御伽婢子」 雁塚昔』が、その一つで、明かに本篇を始動素材として、大きく話を膨らましたものと考えられる。
「寬永十年」一六三三年。]
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