鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「二十三 幽靈來りて子を產む事 附 亡母子を憐む事」
[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。なお、所持する一九八九年刊岩波文庫の高田衛編「江戸怪談集(中)」には、本篇は収録されている。
なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。
本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。最後の話は特に注の必要を感じない。]
二十三 幽靈來たりて子を產む事
附亡母(ばうぼ)子を憐(あはれ)む事
[やぶちゃん注:冒頭注で示した一九八九年岩波文庫刊の高田衛編「江戸怪談集(中)」の挿絵(底本は東洋文庫岩崎文庫本)。キャプションは「もがみの山がた」。]
羽州最上(うしうもがみ)の山方(やまかた)に、「靈童(れいどう)」と名付く者あり。
彼の謂(いは)れを聞くに、最上の商人(あきびと)、京へ上り、女房を持ちけるが、捨て置き、最上へ下る處に、京の女房、尋ね來(きた)る。
此の時、山方の女房を去り、京の女房を、家に置き、子、一人(にん)、儲(まう)く。
其後(そのゝち)、亦、京へ上り、本(もと)の宿(やど)へ行きければ、亭主、見、「其の方(はう)の女房、死して、三年になる。」
由を語る。
男、聞いて、
「さてさて。不思議の事かな。彼(か)の女、最上へ下り、剩(あまつさ)へ、子、一人、有り。」
と云ふ。
父、聞いて悅ぶこと、限り無し。
急ぎ、最上へ下り、彼(か)の家へ行けば、女房、部屋へ入りて、逢はず。
父、餘りに堪え兼ね、部屋へ入りて見れば、京にて、立てたる、卒塔婆(そとば)なり。
戒名、年號、疑ひなし。
之に依つて、其子を「靈童」と云へり。
[やぶちゃん注:本篇は後発の「宿直草卷三 第一 卒都婆の子産む事」がインスパイアしている。
「山方」山形県山形市。
「本の宿」先に男が逗留していた宿。以下、それを女の父が聴いて宿まで来たか、或いは、この山形の男が義父の家を訪ねたか、そうしたシークエンスの省略がなされているように私は感じる。「江戸怪談集(中)」の注では、『京の女房が居た家』とするが、私はちょっと従えない。]
〇攝州、大坂の近所に、死したる本(もと)の女房、來りて、子の髮を結ふ事、三年なり。
或時、來りて、今の女房の舌を貫(ぬ)きける間(あひだ)、さまざま、養生して能く成り、離別して、他處(たしよ)へ行くとなり。
[やぶちゃん注:本書中の最短の一篇。]
〇紀州にて、或る人の内儀、難產にて死去す。然(しか)れども、子は生まれて、息災なり。
彼(か)の母の亡靈、來つて、子をいだき、乳を呑ませ、三歲に成るまで、そだてけり。
女房、十七歲の年、死にけるが、三年過ぎても、十七歲の形に見えたり。
其の子、十七、八の比(ころ)、見る人、確(たしか)に語る。
「色、少し惡しき男なり。」
といへり。
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