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2022/10/02

鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 上卷「四 人を咀ふ僧忽ち報いを受くる事 附 火炎の報いの事」

 

[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村(あえばこうそん)校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。

 なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。

 本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。踊り字「〱」「ぐ」は正字化した。適宜、オリジナルに注を附す。]

 

    人を咀(のろ)ふ僧忽ち報いを受くる事

     火炎(ひあぶり)の報いの事

 寬永十八年十月、本秀長老、三州より、濃州(ぢようしう)池田の近處(きんじよ)、「中の鄕」と云ふ處へ行き給ふ。彼處(かのところ)に文秀と云ふ僧、十二、三年、徧參して、後(のち)、引寵居(ひきこみゐ)たり。

 彼(かの)文秀、大作(おほづく)りなぞし、利錢賣買(りせんばいばい)のわざを爲し、世を渡るなり。去程(さるほど)に、庄屋の女の爲に、女難を受けたり。

 是を知りたる者、一人あり。

 此者の方へ、女の方より金子二兩、亦、坊主の方より、金子二兩、出(いだ)して、

「是を、能々(よくよく)隱してくれよ。」

と賴むなり。

 彼(か)の者、

「尤も。」

と云うて金子を取り、頓(やが)て人に語るなり。

 此時、文秀、腹を立ち、人形を作り、ふしぶしに、刀を作りさして、彼(かの)者を强(つよ)く咀ふ程に、やがて、のろひ殺すなり。

 然(しか)るに、彼(か)の文秀、七日を過ぎざるに、狂氣して、赤裸になりて、かけ回ること、鳥獸(とりけだもの)の如し。

 少しも立留(たちど)まれば、地より釼(つるぎ)出でゝ、足をつらぬくと云うて、走るなり。

 取り付く草木(くさき)も、皆、釼なり。

「あら、おそろし、あら、おそろし。」

と云うて、飛びありくこと、二日三夜(ふつかみよ)なり。

 處の代官、是を聞いて、

「捨て置くことも、いかゞ。」

と云うて、追ひ回し、たゝき伏せて、とらへ、馬に乘せて鄕中(がうちう)へ來(きた)る。

 馬の上にても、

「釼に貫拔(つらぬか)る。」

とて、悲(かなし)むなり。

「牢を入れて、處の者に番をさせ置きたるを見たり。」

と、本秀、慥(たしか)に語り給ふ。

 「剱樹刀山」と云ふこと、明かなることなり。

[やぶちゃん注:「寬永十八年」一六四一年。

「本秀長老」既出既注

「濃州池田の近處」「中の鄕」旧池田郡中郷村であろう。現在の安八(あんぱち)郡輪之内町(わのうちちょう)中郷(なかごう)。

「徧參」底本は「偏參」だが、初版板本15コマ目)で訂した。「遍参」とも書き、「へんざん」とも読む。「遍(あまね)く参学する」の意で、禅僧が諸国を歩きまわり、各地の優れた高僧から、広く教えを受けることを言う。

「大作(おほづく)り」多くの土地を手に入れ、耕作をすること。但し、晴耕雨読というのではなく、「利錢賣買のわざを爲し、世を渡るなり」と言っているから、小作人に労役させていたものであろう。

『此者の方へ、女の方より金子二兩、亦、坊主の方より、金子二兩、出(いだ)して、「是を、能々(よくよく)隱してくれよ。」と賴むなり。彼(か)の者、「尤も。」と云うて金子を取り、頓(やが)て人に語るなり』これは、思うに、持っていることがまずい不当利益を双方が交換して、隠し持ったということであろう。仮に発見された時のためには、女は「寺修繕のための布施」、男は「処方の信者の義援金」とでも表書きを記して封を打っておけばよい。しかし、どうも、そんなことは自分ですればよいことであり、ここには、その交換という奇妙な行為の中に、女と僧が肉体関係を持っていたことを暗示させていると考えるのが妥当だろう(それこそが前の「女難」の真意である)。さればこそ、女犯(にょぼん)に手を染めた僧は、ダメ押しで女を呪い殺すという大罪によって、生きながらにして「剱樹刀山」――刀剣を山や樹のように逆さに立て、その上を歩かせる地獄――に落ちるという風に考えると、私は腑に落ちるのである。最後にどうなったかまで書かないのは、まかりなりにも「徧參の僧」であったことを汲んだものか。]

 

○江州佐和山にて、さる人、下女を炬火(たいまつ)を以て、炙殺(あぶりごろし)しけり。

 然(しか)るに、彼(か)の人、火(ひ)の病(やまひ)を受けて、總身、燃るなり。

「早く、水を、くれよ。」

と云ふ間、いそぎ、水を持來(もちきた)れば、

「是れ、更に、水にて、なし。」

と云うて、呑むこと、不ㇾ叶、

「然(さ)あらば。」

とて、大半切(おほはんぎり)に水を入れ、篠(さゝ)の葉などにて、露を掛(かけ)て見けるに、滴り、身に落つるを、其れも火なり。

「やれ、あつや、堪難(たへがた)や、いかにも、皆、知らず、總身(そうみ)、火に燃る、」

とて、悲(かなし)むほどに、祈念に名を得たる眞言坊主を賴み、大法・秘法を行ひ、樣々(さまざま)、加持しけれども、水、呑むこと、不能(あたはず)、只、

「水、水、」[やぶちゃん注:後者は底本では「々」。]

と云ふばかりにて、七日に燒死(やけし)にけり。

 慥かに知る人、語るなり。寛永十七年のことなり。

[やぶちゃん注:症状としては「平家物語」の清盛の死でお馴染みの、最も重篤な、最後には「脳が解ける」とも表現される熱性マラリアであろう。

「江州佐和山」滋賀県彦根市佐和山町(さわやまちょう)。

「大半切」底の浅い盥状の桶の大きなもの。

「寛永十七年」一六四〇年。]

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