鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「三十四 乞食を切りて報いを受くる事」
[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。なお、所持する一九八九年刊岩波文庫の高田衛編「江戸怪談集(中)」には、本篇以下の中巻の「二十九」から最後の「三十六」及び附記までは全く収録されていない。
なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。
本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。]
三十四 乞食(こつじき)を切りて報いを受くる事
江州にて、さる侍の子供、十五歲、十八歲の人、常々、等閑(とうかん)なく咄(はな)しけるが、或時、兩人、町へ出で、乞食(こつじき)居(ゐ)けるに向つて、
「其樣(そやう)にて居たるより、死(しに)たくはないか。」
と問ひければ、
「尤もなり。死(しに)たし。」
と云ふ。
「然(さ)あらば。」
とて、既に切らんとす。
時に、
「いやいや、死(しに)たくもなし。無埋に殺し給はゞ、祟るべし。」
と云へども、聞かず、終(つひ)に切りたり。
扨(さて)、十日も過(すぎ)ざるに、兩人、少しの遺恨にて、討果(うちはた)しけり。
後に聞けば、文(ふみ)の返事せざりし遺恨と、知れたり。
諸人(しょにん)、
「乞食(こつじき)の報いなり。」
と、云ひあへり、となり。
[やぶちゃん注:「等閑(とうかん)なく」日頃より非常に親しくして、心安い関係の者同士で。]
« 鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「三十三 馬の報いの事」 | トップページ | 鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「三十五 幽靈刀(かたな)を借りて人を切る事」 »