鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「十二 鯰人の夢に告て命を乞ふ事 附 牛夢中に命の禮を云ふ事」
[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。なお、所持する一九八九年刊岩波文庫の高田衛編「江戸怪談集(中)」には、本篇は収録されていない。
なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。
本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。踊り字「〱」「ぐ」は正字化した。適宜、オリジナルに注を附す。]
十二 鯰(なまづ)人の夢に告(つげ)て命を乞ふ事
附牛夢中に命の禮を云ふ事
江州佐和に、鵜(う)の何某(なにがし)と云ふ人、或夜の夢に、大(おほき)なる鯰、匍(は)ひ來て、
「我々、明朝、是(これ)へ參るべし。必ず、放ちて給へ。」
と云ふ。一庵と云ふ醫者の方(かた)より、來るべき、との夢なり。
夜明けて、何某、母に向つて、
「今夜(こよひ)、怪しき夢を見たり。」
と語る處に、一庵より、桶に入れて鯰を持來(もちきた)れり。
見れば、眞(まこと)に夢に少しも違(たが)はず、眼(まなこ)、
「ぼちぼち」
として、居(ゐ)たり。
則ち、生(いか)しけり。
是より、彼人(かのひと)、善者に成りけるとなり。
[やぶちゃん注:「江州佐和」滋賀県彦根市佐和町(さわちょう)。彦根城の南東直近。]
○賀州八幡(はちまん)にて、市右衞門(いちゑもん)と云ふ者、牛を賣るに、友達、
「此牛は、殺して喰はんとて、買ふ。」
と云ふ。
市右衞門、是を聞き、急ぎ、買手の方ヘ行き、樣々(さまざま)佗言(わびごと)して、牛を取返(とりかへ)す。
其夜(そのよ)、枕元に、人、來りて、市右衞門を起(おこ)して、
「今日、命を助け給ふこと、忝(かたじけ)なし。」
と云ふ。
起て見れば、牛なり。是は、四郞右衞門内(うち)、又市、物語りなり。
[やぶちゃん注:「賀州八幡(はちまん)」三重県伊賀市八幡町(やはたちょう)。]
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