鈴木正三「因果物語」(片仮名本(義雲・雲歩撰)底本・饗庭篁村校訂版) 中卷「三十 畜生人の恩を報ずる事」
[やぶちゃん注:底本は、所持する明治四四(一九一一)年冨山房刊の「名著文庫」の「巻四十四」の、饗庭篁村校訂になる「因果物語」(平仮名本底本であるが、仮名は平仮名表記となっている)を使用した。なお、私の底本は劣化がひどく、しかも総ルビが禍いして、OCRによる読み込みが困難なため、タイピングになるので、時間がかかることを断っておく。なお、所持する一九八九年刊岩波文庫の高田衛編「江戸怪談集(中)」には、本篇以下の中巻の「二十九」から最後の「三十六」及び附記までは全く収録されていない。
なお、他に私の所持品と全く同じものが、国立国会図書館デジタルコレクションのこちらにあり、また、「愛知芸術文化センター愛知県図書館」公式サイト内の「貴重和本ライブラリー」のこちらで、初版板本(一括PDF)が視認出来る。後者は読みなどの不審箇所を校合する。
本文は饗庭篁村の解題(ルビ無し)を除き、総ルビであるが、難読と判断したもの、読みが振れるもののみに限った。なお、この標題の「夙因」の「夙」は、ここでは「昔」の意で、前世からの因縁である「宿因」と同義である。]
三十 畜生人の恩を報ずる事
信州上田村に、守珍(しゆちん)と云ふ僧あり。
近所の姥(うば)、彼(か)の僧を養子にして、小庵を建て置き、姥は山中に入りて、七、八年送る。
然(しか)るに、山中の事なれば、狼、常に來(きた)るを、飼ひ置きける。
姥、年よりて、後(のち)、里へ下り、死にけり。
處の者、則ち、火葬しければ、彼(か)の狼ども、卅疋程、來りて、守り居(ゐ)けるが、三日の灰寄(はいよせ)まで、詰(つめ)て居たり。
寬永十二年の事なり。
[やぶちゃん注:「灰寄」荼毘(だび)の灰を掻き寄せて、遺骨を拾うこと。火葬の後、骨を拾い集めること。「骨上げ」「骨拾い」。
「寬永十二年」一六三五年。]
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