大和怪異記 卷之一 第十八 壬生の尼死して腹より火出る事 / 卷之一~了
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の分はここから。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。
なお、本篇を以って巻之一は終わっている。]
第十八 壬生(みぶ)の尼(あま)死して腹より火(ひ)出(いづ)る事
六条壬生に、尼の死《しし》たるを、引《ひき》すてしを、犬(いぬ)、かの死がいのはらを、一《ひと》くち、くひやぶりければ、腹中より、火、出て、からだを、やきうしなひけり。「續古事談」
[やぶちゃん注:「續古事談」鎌倉初期の説話集。本来は六巻(但し、現存諸本は第三巻を欠く)。現存本の収載説話は、王朝時代の天皇・貴族の逸事を中心に、中国説話も含む百八十五話。編者不明であるが、内容に帝王のあるべき道を示そうとする意識が認められ、「承久の乱」を前にした後鳥羽院への諫の書とする説もある。跋文には、建保七(一二一九)年四月二十三日、草庵の中で完成したことが記される。巻構成は、巻六の漢朝部を除き、書名通り、直近で先行する「古事談」(鎌倉時代の説話集。全六巻。源顕兼編。建暦二(一二一二)年から~建保三(一二一五)年の間に成立。奈良から鎌倉初期までの説話を集め、王道后宮・臣節・僧行・勇士・神社仏寺・亭宅諸道の六編に分類したもの。文体は和製漢文体や仮名交り文など、多様)に、ほぼ準ずるが、文体は和文であり、説話の性格にも相当の違いがある。本書の説話には儒教的教訓性が強く、学才称揚の姿勢、及び、尚古思想・末代意識も顕著である。出典には「古事談」・「中外抄」・「富家語」(ふけご)・「中右記」(ちゅうゆうき)・「長秋記」などが認められる(小学館「日本大百科全書」に拠った)。所持する岩波の「新日本古典文学大系」版で確認した。巻の第二六七〇ページ所収(通し番号(二―二七、五三))。それによれば、原拠では、頭に、『大二条殿の日記にこそ、不思議の事は侍れ』とあって、ほぼ同様の文があって、最後に『これ権者にや』と結んでいる。「大二条殿」とは、藤原道長の五男で、従一位・関白・太政大臣・贈正一位の藤原教通(のりみち 長徳二(九九六)年~承保二(一〇七五)年)の別名で、彼の日記。但し、現在は断片的にしか伝わっていない。因みに、「人体自然発火現象」は現在に至るまで、本邦では稀な怪奇現象である。
「六条壬生」現在のこの中央附近(グーグル・マップ・データ)。]
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