大和怪異記 卷之七 第十八 怨㚑主人の子をころす事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第十八 怨㚑(をん《りやう》)主人の子をころす事
大坂の「はりい」が物がたりに、ある町人の子、いたくなやみにし、夜ふくるまで、そのもとに有《あり》て、さじきに出(いで)、にはのかたを見やり侍るとき、女の、さかさまになれるが、たちしかば、おどろきて、
「いかなるものぞ。」
と、とへば、
「われは、此家(いへ)の下女にて侍る。あるじの妻、非儀(ひぎ)なるねたみにて、これなる古井(ふる《ゐ》)の中(なか)に、さかさまに、おとされし、そのうらみ、やるかたなし。今、煩(わつら)ふ子は、わが所爲(しよ《ゐ》)にて、ころすなり。これには、かぎるべからず、たゝりを、なすぞ。はやく、かへられよ。」
と、いひすて、をくに、とをると[やぶちゃん注:二箇所ともママ。]、ひとしく、かの子、死して、おのおの、
「あつ。」
と、なき侍りし。同
[やぶちゃん注:「犬著聞集」原拠。「新著聞集」には載らないようである。冒頭を除き、最後まで聞き書きそのままの転写(丁寧語がそれを示す)で、本篇では、比較的珍しいタイプで、体験者の直談であるから、いかにもリアリティのある怪談である。
「はりい」「針醫」か。]
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