明恵上人夢記 95
95
一、夜、夢に、五、六人の女房、來り、親近して予を尊重す。此(かく)の如き夢想、多々也。後日、記せるが故に、分明ならずと云々。
前の夢を翻(ほん)せる也。
[やぶちゃん注:底本の記載順列に疑問があるため、時制推定は不能。「84」の私の冒頭注を参照されたい。但し、河合速雄氏は「明恵 夢を生きる」(204ページ)で、この夢を「89」(氏は「善妙の夢」として最重要の夢の一つとされ、詳細な分析をなさっている。それは「89」でも一部を引用してある)の『「善妙の夢」に続いて、同じく承久二』(一二二〇)『年七月頃に見たとする夢と推定される夢』として挙げておられ、さらにクレジットが推定できる「76」(樋口の女房が池に飛び込むも上がってくると一切濡れていないという夢)を直後に引用してある。
「翻(ほん)せる」これは「うつしかえる・うつしとる」の意であろう。]
□やぶちゃん現代語訳
95
ある夜の夢に――
五、六人の女房がやって来て、いかにも親しく近侍して、私を尊重すること頻り……
といったような同内容の夢想が、私には、実は、甚だ多くある。
私はそれを後日に書き記しているため、実は、その夢の記憶は朧げになってしまっていて、
「分明ではない」と言ったような記載ばかりが残っている……
これは、前の夢を私の心が、何遍も繰り返し映し撮って、再現していることに他ならないのである。