大和怪異記 卷之六 第十七 火車にのる事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここと、ここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第十七 火車(ひのくるま)にのる事
西京《にしぎやう》のもの、ながく、わづらひ、死(しす)べき七日まへより、
「靑き、あかき、鬼形(きぎやう)のもの、來れるは、おそろし、」
など、いひて、泣(なき)さけぶ事、晝夜(ちうや)に、ひま、なし。
七日にあたる日、
「あら、くるしや、おそろしや、『其《それ》、火車に、のれ。』とや。ゆるして、たべ、」
と、手をあはせ、あしずりをしけるが、
「とかく、參らでは、なるまじき事にや、是非なき事や、」
とて、久しく腰たゝざりし病人、ふと、立(たち)て、はしり出《いで》、門口(かどぐち)の、しきゐに、つまづき、たふれて、むなしくなれり。「犬著聞」
[やぶちゃん注:底本は最後の「ゆるして、たべ。」以下、「なれり」の前まで、損壊のため、「近世民間異聞怪談集成」の翻刻に添って正字化した。「犬著聞集」原拠。これは、幸いにして、後代の再編集版である神谷養勇軒編の「新著聞集」に所収する。「第十 奇怪篇」にある「靣(をもて)火車(くわしや)を見(み)る」(歴史的仮名遣はママ)である。早稲田大学図書館「古典総合データベース」の寛延二(一七四九)年刊の後刷版をリンクさせておく。ここの合巻「四」の25 コマ目から。冒頭に「一雪、親の下女に」とある「一雪」は、原著「犬著聞集」(別名「古今犬著聞集」)の作者俳諧師椋梨一雪のことであり、これが実は「犬著聞集」の編集版に過ぎないことが、バレてしまっている特異点の一つである。
「火車」妖怪としての「火車(くわしや)」は私の怪奇談集に枚挙に遑がないが(「狗張子卷之六 杉田彥左衞門天狗に殺さる」の私の最後の注及びその中の私の記事リンクを参照されたい)、これは、地獄の迎え車ととれ、それらとは異なる。これも何らかの脳症の末期の幻覚である。]
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