大和怪異記 卷之六 第十 蛇の執心うづらをころす事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第十 蛇(へび)の執心うづらをころす事
ある人、うづらを、かふ事を、このみ、かご、きれゐに[やぶちゃん注:ママ。]こしらへ、砂・水、あびせ、蟲、かひ、あさは、よこ雲ひくころに、かならず、まどにかけて、をきけり[やぶちゃん注:ママ。]。
あるとき、此うづらをかけたるまどの上より、一尺あまりの小蛇(こへび)、かしらをさげて、此うづらを見居(みゐ)しかば、あるじ、見付《みつけ》て、へびを、うちころして捨(すて)たり。
それより、半時(はんじ)ばかり有《あり》て、此鶉(うづら)、羽をひろげ、あしをちゞめ、筋(すぢ)ひきて、死したり。
あるじ、ふしぎに思ひ、よくよく見れば、二寸ばかりの小蛇、うづらのくびに、まきつき、しめて、あり。
「『さては。さきほどころせしへびの執心、つゐに、うづらを、ころしぬ。』と、おどろきけり。」
といふ。ある人の物語
[やぶちゃん注:初めてのネタ元を直話談とするものと採る。しかし、この二寸の小蛇を殺した先の蛇の執心、その場合、死んだ蛇が変じて出てきた亡霊となるが、その小蛇はどうしたのか、どうなったのか、について言及していない点で怪奇談としては、いかにも細工が杜撰で、そこを直ちに突かなかった、聴いていた作者もまた、これ、迂闊である。
「うづら」「鶉」キジ目キジ科ウズラ属ウズラ Coturnix japonica。博物誌は私の「和漢三才圖會第四十二 原禽類 鶉 (ウズラ)」を参照。
「半時」現在の一時間相当。
「筋(すぢ)ひきて」頭部や羽や脚部を痙攣させて。]
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