大和怪異記 卷之六 第十一 金に執心をのこす僧が事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第十一 金に執心をのこす僧が事
いつの比《ころ》にか、豊前小倉に「ばけ物屋敷」とて、あき屋しき、ありしを、新參の人、態(わざ)と、のぞみて、うつりしに、三日のくれに、廣間の、いろりのはしに、法師、來りて居《ゐ》たり。
ていしゆ、
『すはや、きゝ及ぶ「ばけ物」なり。』
と思ひ、かれがむかふに、をしなをり[やぶちゃん注:孰れの「を」もママ。]、
「はた」
と、にらんで、ひかへければ、法師、
「あゝ、足下(そこ)は、たぐゐなき大剛(だいがう)の人なり。われは、まつたく、人にあだするものに、あらず。むかし、此所《このところ》、寺にて有《あり》しときの、住持なり。金子を、おほく、たくわえ[やぶちゃん注:ママ。]置《おき》しゆへ[やぶちゃん注:ママ。]、壷に入(いれ)て、かしこの地の、そこに、ふかく、うづみをきぬ[やぶちゃん注:ママ。]。これに、執心、のこりて、かく、あらはれいで、此事を、かたらんとすれば、おそれて、にげさるによつて、いふべき、たより、なし。ねがはくは、此かねをほり出《いだ》し、いづれの寺に、をくりて[やぶちゃん注:ママ。]、わが跡、とふらひて、たべ。」
と望(のぞみ)しかば、かのさふらひ、
「やすきことなり。」
と、こたへしかば、かきけして、うせにけり。
やがて、此をもむき[やぶちゃん注:ママ。]を主人にうつたえ[やぶちゃん注:ママ。]、検使(けんし)をうけ、かねを、ほり出し、法師があとを、とふらはせければ、ふたゝび「ばけもの」、出《いで》ずとかや。「犬著聞」
[やぶちゃん注:お馴染み原拠。再再編集版にも載らない。そもそもが、この導入の設定は怪奇談集に腐るほどあるのだが、出現した亡者のそれは、僧形のままで、これといって誰もが忌避するおぞましい「化け物」の姿ではなく、後の展開も意外性が全くなく、ショボいの一言に尽きる。]
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