大和怪異記 卷之六 第六 幽㚑來りて妻をいざなふ事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第六 幽㚑(《いう》れい)來りて妻(さい)をいざなふ事
同国同郡に六兵衞といふ者あり。
死期(しご)におよんで、ゆいごんに、
「わが死骸をうらのやぶに葬れ。」
と、いひしかば、其ことばを、たがえず、はうふりぬ。
七日にあたりし夜(よ)より、妻がかたに、來《きた》る。
はじめこそ、おそろしかりけれ、後には、としごろのごとく、むつまじくちぎりて、一年計(ひととせばかり)をへたり。
あるとき、又、幽靈、來《きたつ》て、
「いまよりのちは、來るまじきぞ。いざ、我(わが)かたに、來(こ)よ。」
といふに、
「いや、子どもも、いまだ、おさなければ[やぶちゃん注:ママ。]、今ゆきては、跡のため、よろしからじ。」
と。
たがゐに[やぶちゃん注:ママ。]、手と手を引合《ひきあひ》しが、
「よしや、來りがたくは、心にまかせよ。」
と、いひて、幽靈は、かへりぬ。
それよりのち、妻が手、幽靈がとらえし所より、いたみ、出《いで》て、さまざま、醫療をつくしけれ共゙、くさり、たゞれて、死しけるとかや。同
[やぶちゃん注:「同國同郡」前話(同じ「犬著聞集」典拠)と同じで「越前国大野郡(おほのごほり)」。但し、江戸時代の「大野郡」は、現在の大野市の全域の他、勝山市の全域・福井市の一部・岐阜県郡上市の一部が含まれる広域であったから(越前国で最も面積の大きい郡であった。ウィキの旧「大野郡(福井県)」の地図を参照)、これではロケーションは特定出来ない。]
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