大和怪異記 卷之六 第十五 夢想を得て富る事
[やぶちゃん注:底本は「国文学研究資料館」の「新日本古典籍総合データベース」の「お茶の水女子大学図書館」蔵の宝永六年版「出所付 大和怪異記」(絵入版本。「出所付」とは各篇の末尾に原拠を附記していることを示す意であろう)を視認して使用する。今回の本文部分はここと、ここ。但し、加工データとして、所持する二〇〇三年国書刊行会刊の『江戸怪異綺想文芸大系』第五の「近世民間異聞怪談集成」の土屋順子氏の校訂になる同書(そちらの底本は国立国会図書館本。ネットでは現認出来ない)をOCRで読み取ったものを使用する。
正字か異体字か迷ったものは、正字とした。読みは、かなり多く振られているが、難読或いは読みが振れると判断したものに限った。それらは( )で示した。逆に、読みがないが、読みが振れると感じた部分は私が推定で《 》を用いて歴史的仮名遣の読みを添えた。また、本文は完全なベタであるが、読み易さを考慮し、「近世民間異聞怪談集成」を参考にして段落を成形し、句読点・記号を打ち、直接話法及びそれに準ずるものは改行して示した。注は基本は最後に附すこととする。踊り字「く」「〲」は正字化した。なお、底本のルビは歴史的仮名遣の誤りが激しく、ママ注記を入れると、連続してワサワサになるため、歴史的仮名遣を誤ったものの一部では、( )で入れずに、私が正しい歴史的仮名遣で《 》で入れた部分も含まれてくることをお断りしておく。]
第十五 夢想を得て富(とめ)る事
鍛冶(かぢ)の三太夫といふものは、京より、江戶にくだり、たゞひとり、釘細工(くぎざいく)して有《あり》しころ、
〽重箱の内にもたまるほこりかな
といふ、むさうをかうふり、
「重ばこのうちに、ほこりたまるは、不吉なり」
と、人にかたりしかば、
「それは、めでたき夢想なり。『〽重箱のなかのほこるはよきにあらずや』。」
と、あはせしを、うれしく思ひ、湯嶋(ゆしま)の天神の別當を賴み、百韻の連哥(《れん》が)して祝(いは)ひしに、やがて、ある國のつかさより、かぎを、あつらへ來りしを、うちて參らせしかば、
「ことのほかに、よろしき。」
とて、よろこばる。やがて、
「かの家(いへ)に作事(さくじ)ありけるとき、入札《いれふだ》をせよ。」
といひ來りけるを、つもりて、札をおとし、「したうり」して、金(かね)をとり、それより、能(よき)事のみ、つゞきて、後《のち》は、十餘万兩の分限(ぶんげん)になりしといふ。同
[やぶちゃん注:本文の『やがて、「かの家(いへ)に」以下、末尾の「は十餘万兩の分限(ぶんげん)になりしといふ。」の初めまでの間の大方の一部は、底本は損壊しているため、「近世民間異聞怪談集成」の翻刻に添って正字化した。「犬著聞集」だが、「新著聞集」には載らないようである。
「〽重箱のなかのほこるはよきにあらずや」この庵点は「あはせし」という後文から、私が附した。「重箱を並べた中で誇るというのは、よいことではあるまいかのう」の意の付句か。
「したうり」知れる下請けの業者の頼むことか。]
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