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2022/12/26

畔田翠山「水族志」 イソダヒ (アカマンボウ(✕)→ゴマフエダイ(○))

 

(二四)

イソダヒ

大者二三尺形狀棘鬣ニ似テ濶厚鱗胭脂紅色ニ乄淡黃ヲ帶腹色淺シ尾鬣倶ニ紅色也㋑マン子ンダヒ【萬年鯛ノ義】一名イソダヒ【熊野九木浦】カナカブト【紀州若山】形狀棘鬣ニ似テ潤厚アブラ魚ニ似タリ背紅色黑ヲ帶腹色淺シ尾鬣黃褐色大者三四尺冬月出

○やぶちゃんの書き下し文

いそだひ

大なるは、二、三尺。形狀、棘鬣(たひ)に似て、濶(ひろ)く厚く、鱗、胭脂(えんじ)・紅色にして淡黃を帶ぶ。腹の色、淺し。尾鬣(おびれ)倶(とも)に紅色なり。

まんねんだひ【「萬年鯛」の義。】。一名「いそだひ」【熊野、九木浦。】・「かなかぶと」【紀州、若山。】。形狀、棘鬣(たひ)に似て、潤く厚く、「あぶら魚(うを)」に似たり。背、紅色、黑を帶び、腹色、淺し。尾鬣、黃褐色、大なるは、三、四尺、冬月、出づ。

[やぶちゃん注:底本のここ。この「イソダイ」という異名は現在、所謂、「マンボウ」型の(見た目が似ているだけで、分類学上はマンボウの仲間では全くない。マンボウは条鰭綱フグ目マンボウ科マンボウ属 Mola に属する。但し、食性はクラゲを食べているらしい点では似ている)、側扁して体高が高く円形に近く、鰭が鮮やかに赤く伸び(特に背鰭・腹鰭・胸鰭が長い)る(私の、驚異的な栗本丹洲自筆巻子本(国立国会図書館所蔵・第1軸)「魚譜」の「マンダイ (アカマンボウ)」の図群を、是非、参照されたい)、

顎口上綱硬骨魚綱綱条鰭亜綱アカマンボウ上目アカマンボウ目アカマンボウ科アカマンボウ属アカマンボウ Lampris megalopsis

の異名として、宇井縫蔵の「紀州魚譜」ではここ(「マンダイ」を筆頭標題和名としてある)に、まず、載り(但し、採取出典は本書である)、宇井氏はまた、別に、

棘鰭上目スズキ目ベラ亜目ブダイ科ブダイ属ブダイ Calotomus japonicus

の異名としても、こちらに載せている(採集地を和歌山県『湯淺』とする)。しかし、本文の記載とこの二種を比較するに、色彩は二種ともに似ているように見えるものの、ブダイは全体にブダイの♀は赤みが強いが、これは全体に及び、「腹の色」は「淺」くはない。個体変異があっても、こう記すほどの通性はない。さらに広義の「棘鬣(たひ)」=現行の我々が勝手に「~タイ」と呼んでいる、タイとは縁の遠い魚類も多数含むそれと同じ)に比べて、有意に「濶(ひろ)く厚く」というのはブダイに当たるかというと、私は、全く当たらないと思う。体幹の「厚さ」は「厚い」と言えるが、体高は寧ろ低く、それを「潤い」とは決して言わない。されば私は、今、畔田が目の前に置いて観察している前者「イソダヒ」は、絶対にブダイではなく、アカマンボウであると断言するものである。【二〇二三年四月十八日★重要追記★】本種について、その後に調べているうちに、以上の記載に誤りではないが、不備があることに気づいたので追記する。宇井縫蔵氏は「紀州魚譜」のここで、「方言」で本書のこの部分の記載を『水族志にはイソダヒ(九木浦)、カナカブト(和歌山)とある』(太字下線は底本では傍点「●」、太字は傍点「﹅」)と示されて、学名を Lampris regius に比定してある。これは現在の条鰭綱アカマンボウ目アカマンボウ科アカマンボウ属アカマンボウ Lampris megalopsis のことである。但し、シノニムではなく、別種である。これは、宇井氏の誤りではなく、ごく最近に種が改められた結果である。ウィキの「アカマンボウ」によれば、『従来』、『アカマンボウ科』Lampridae『にはアカマンボウ Lampris guttatus(宇井氏の示した学名は、この Lampris guttatus のsynonymである)『南半球に分布する全長』一メートル『程度の Lampris immaculatus(英名:southern opa)の』一属二種のみが『属するとされていた』が、二〇一八年に、『アカマンボウLampris guttatus』の方は、五『種に分類され、アカマンボウ科は』六『種と』変更された。『その結果』、『従来』、『アカマンボウとされていたLampris guttatusは北西太平洋のみに分布することが判明し』、本邦の和名種である『アカマンボウの学名はLampris megalopsisに変更された』のである。

「まんねんだひ」「萬年鯛」は現在、アカマンボウの他に、スズキ目スズキ亜目キントキダイ科クルマダイ属クルマダイ Pristigenys niphonia や、棘鰭上目キンメダイ目イットウダイ科アカマツカサ亜科アカマツカサ属アカマツカサ Myripristis berndti の異名でもある。二種ともに全体が有意な赤みを帯び、前者は側扁性がやや強く、側面から見ると、アカマツカサと異なり、有意に丸く見える。

「熊野、九木浦」現在の三重県尾鷲市九鬼町(くきちょう)であろう。

「かなかぶと」宇井氏と同じく、「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」のアカマンボウのページでは、本記載をもとに同種の異名とする。

「あぶら魚(うを)」「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の異名一覧の「アブラウオ」には、実に十三種が載るが、以上に掲げた種は含まれない。この内、強く側扁するもので、和歌山の異名とする(宇井氏の前掲書による)のは、スズキ目スズキ亜目チョウチョウウオ科チョウチョウウオ属シラコダイ Chaetodon nippon であるが、体色は大部分が黄色である。実は次の項が「アブラダヒ」であるので、そちらで考証する。【二〇二四年五月二十六日追記】四日前、Xの「DECO」氏より、以下の投稿を頂戴した。

   《引用開始》

突然の無礼申し訳ありません
魚の語源を調べる事を趣味としている者です
イソダヒ・アブラダヒについてですが、釣りではフエダイの事をシブダイとかシロテンとか言いますが、「アブラダイ」という人もいます
アブラダヒはフエダイではないでしょうか
またイソダヒはゴマフエダイだと推察してます

   《引用終了》

今、畔田の記載を虚心に読んでみると、一つの大きな違和感があることに気づいた。もし本種が確かにアカマンボウであるとすれば、畔田が通常のタイ類、或いは、体型が似ていて「~ダイ」の名を持つものと異なり、有意に体型が強い円形を示すことを、絶対に「厚」というレベルではなく、「圓」とするに違いないという確信であった。而して、「DECO」氏の指示されるゴマフエダイを「ぼうずコンニャクの市場魚類図鑑」の同種のページの画像を見るに、アカマンボウより遙かに、こちらの方が候補足り得ると感じた。されば、同定を「ゴマフエダイ」に変更した。「DECO」氏に心から御礼申し上げるものである。

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