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2023/01/04

恒藤恭「旧友芥川龍之介」 「芥川龍之介のことなど」(その11) /「十一 芥川のきやうだい」

 

[やぶちゃん注:本篇は全四十章から成るが、その初出は、雑誌『智慧』の昭和二二(一九四七)年五月一日発行号を第一回とし、翌年七月二十五日を最終回として、全九回に分けて連載されたものである。

 底本は「国立国会図書館デジタルコレクション」の「国立国会図書館内/図書館・個人送信限定」の恒藤恭著「旧友芥川龍之介」原本画像(朝日新聞社昭和二四(一九四九)年刊)を視認して電子化する(国立国会図書館への本登録をしないと視認は出来ない)。

 本篇「芥川龍之介のことなど」は、底本本書が敗戦から四年後の刊行であるため、概ね歴史的仮名遣を基本としつつも、時に新仮名遣になっていたり、また、漢字は新字と旧字が混淆し、しかも、同じ漢字が新字になったり、旧字になったりするという個人的にはちょっと残念な表記なのだが、これは、恒藤のせいではなく、戦後の出版社・印刷所のバタバタの中だから仕方がなかったことなのである。漢字表記その他は、以上の底本に即して、厳密にそれらを再現する(五月蠅いだけなのでママ注記は極力控える)。但し、活字のスレが激しく、拡大して見てもよく判らないところもあるが、正字か新字か迷った場合は正字で示した。傍点はこのブログ版では太字とした。私がブログ・カテゴリ「芥川龍之介書簡抄」で注したもの等については、一切、注は附さない。それぞれのところで当該書簡等にリンクさせあるので、そちらを見られたい。

 なお、向後の本書の全電子化と一括公開については、前の記事「友人芥川の追憶」等の冒頭注を参照されたい。

 また、全体を一遍に電子化注するには本篇はちょっと長く、また、各章の内容は、そこで概ね完結しているものが多いことから、ブログ版では分割して示すこととした。]

 

        十一 芥川のきやうだい

 

 芥川には二人の姉と一人の異母弟とがあつた。その二人の芥川の姉の中で私は一人しか会つたことはない。芥川は細長の顏立ちであつたけれど、その人はむしろ丸顏で、あまり芥川には似てゐなかつた。芥川は切れの長い眼つきであつたが。その姉さんはぱつちりとした、つぶらな眼をもつてゐた。二人の間がらはあまり親しさうではなかつた、昭和二年一月に、その姉さんの夫、つまり芥川の義兄の家が火を発して全燒した。義兄は放火の嫌疑をうけたのが因を成して轢死した。その跡始末のために芥川はずゐぶん心づかひをしたらしい。彼が自殺したのは、この事件があつてから半年ばかり経過した時のことである。

 この義兄にあたる人にも二、三回会つたことがあるが、小柄で、ふとり氣味で、医者の代診みたやうな感じのする血色の好い人だつた。「あれは俗人だよ」と芥川はいつてゐた。

 異母弟の得二君は、まつたく芥川には似てゐなかつた。日蓮宗に凝り出して、いくぶんファナチックになつてゐたやうだ。「あいつにはかなはん」と芥川はいつてゐた。

[やぶちゃん注:「二人の姉」『「六 芥川家の人々」』の私の注を参照されたいが、長姉は、新原敏三と龍之介の実母フクの間に生まれた龍之介の長女「ソメ」(初)であり、恒藤どころか、龍之介自身も逢ったことはない。龍之介の生まれる四年前の明治二一(一九八八)年四月に僅か満二歳九ヶ月あまりで脳膜炎で急逝しているからである。次姉ヒサもそちらの注を見られたいが、自死に際しての芥川龍之介の遺書には、遺族によって破棄された部分が存在し、理由は判然としないが、現行の研究では――この次姉ヒサ――及び、ここに出る――義母弟新原得二――との――義絶――の指示があったとされる(無論、実行されていない)。私のサイト版「芥川龍之介遺書全6通 他 関連資料1通≪2008年に新たに見出されたる遺書原本 やぶちゃん翻刻版 附やぶちゃん注≫」を参照されたい。

「その姉さんの夫、つまり芥川の義兄の家が火を発して全燒した。義兄は放火の嫌疑をうけたのが因を成して轢死した。その跡始末のために芥川はずゐぶん心づかひをしたらしい」同じく『(その6) /「六 芥川家の人々」』の私の注を参照されたいが、少し付け加えると、姉ヒサの再婚相手である弁護士西川豊は、大正一二(一九二三)年の一月頃、偽証教唆によって市ケ谷刑務所に収監されるという騒動が、まず、あり、芥川龍之介が自死の直前の昭和二(一九二七)年七月発行の『中央公論』に発表した「冬と手紙と」の「一 冬」(私のサイト版)は、その収監された西川に面会するシークエンスが描かれている。この同じ時、龍之介は盟友小穴隆一が脱疽のために右足首を切断しており、その手術に立ち会うなどのダブル・パンチ状態にあった。そして、自死の年の一月四日には、西川宅が全焼、直前に多額の火災保険がかけられていたことが判り、西川に嫌疑がかかったのであった。その取り調べの最中、西川は失踪し、一月六日午後六時五十分頃、千葉県山武郡土気の国鉄のトンネル附近で飛び込み自殺をしたのであった。結局、あったとされるヒサと得二の義絕は、龍之介の自死の決意の時期に、神経に触る面倒な問題を彼に波状的増幅的に齎したことに対する甚だしい不快感が原因であろうと思われる。則ち、ヒサと得二は自分の死後も養父母・叔母フキ・妻文・男子三人に間接的・直接的に甚だしい難題を吹っかけて来るに違いない(と、確かに、注している私自身も思うのだが)と断じて、義絕要請を遺書に命じたのであろう。先の遺書で注したが、推定では、ヒサ及び得二との義絶とともに、葛巻義敏の扶養を指示してもいるとされるのである。母であるヒサを義絶しながら、義敏を扶養するというのは、正直、おかしな話であろう。遺書のその部分を書いている龍之介には、最早、その矛盾と実行不可能性に気づかないほど、一時的にでも、理性が働いていなかったのである。因みに、破棄された部分には、あと二つ、全集底本は原稿によること及び削除作品についての指示」(原稿は総てが作者に戻ってはいないこと、削除作を指定されたのでは「全集」にならないことから、現実的に実行することは困難であるから、破棄は正当とも言える。但し、だから破棄したというよりも、この破棄された指示書は、同一の続いた文章で一枚或いは複数枚の原稿用紙に書かれていたために、一緒に破棄せざるを得なかったという物理的理由があったと考える方が自然であろう)と――驚くべきことに――小穴隆一と文子の再婚の指示――があったとされるのである。無論、実現していないし、小穴は龍之介の死後、「二つの繪」や「鯨のお詣り」に単行本化される、芥川龍之介に纏わる、あることないことを一緒くたにした文章を、多数、書いており、特に龍之介の原稿を自身の管理下に置いた葛巻義敏を、芥川家に巣食う『奇怪な家ダニ』

と卑称して徹底的に批判したりした結果(二作は私のブログ・カテゴリ「芥川龍之介盟友 小穴隆一」で総て電子化注してある)、芥川家の方から小穴とは疎遠になってしまったようである。

「異母弟の得二君」同じく『(その6) /「六 芥川家の人々」』の私の注を参照。]

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