佐藤春夫 改作 田園の憂鬱 或は病める薔薇 正規表現版 (その10)
[やぶちゃん注:電子化意図や底本は初回の私の冒頭注を参照されたい。]
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雨は、一日小降りになつたかと思ふと、その次の日には前よりも一層ひどく降る。さて、その次の日にはまた小降りになる。併し、その次の次の日にはまた降りしきる……。この間歇的な雨は何時まででも降る……。幾日でも、幾日でも降る……。彼の心身を腐らせようとして降る……。世界そのものを腐らせようとして降る………。
何もかも腐れ………、
腐るなら腐れ………、
勝手に腐れ………、
腐れ腐れ………、
お前の頭が………、
まつさきに腐れ………、
………………………、
………………………、
………………………、
………………………、
………………………、
………………………、
聲のないコーラスは家の外から、四方から來て、彼の家のなか一ぱいにうすら寒く、うす暗く漂うて、見てゐると雨の脚はさういふリズムで降る。北の窓の方を見ても、南の窓の方を見ても、その物憂いリズムの無限の度數を繰り返し、繰り返して降る……。何日になつたならば止まうといふ希望なしで降る……。
[やぶちゃん注:「佐藤春夫 未定稿『病める薔薇 或は「田園の憂鬱」』(天佑社初版版)(その10)」と対照されたい。]
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