大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」 「夢を追ふ」・「ひとことの彩」・「過ぐるもの」・「浮べる水草」・「心かすけし」
[やぶちゃん注:底本その他は始動した一回目の私の冒頭注を参照されたい。特にソリッドに公開したのには意味はない。]
夢 を 追 ふ
手にうつるもの
みなもくづれて 溶けゆけり
こころは あはき影に臥し
ながれ藻の
かすかに消ゆる 夢を追ふ
ひとことの彩
汝(な)が一言(ひとこと)の彩(あや)にさへ
かぎりなきよろこびの あふれつつ
われは なにとなく 心ゆるやかに
たえてひさしき ほほゑみをもて
初秋(はつあき)のみちをあるけり
過ぐるもの
あたたかき 秋の日のゆふべなり
こころは 石のうへにすわりて
とどめがたきものの すぐるをききわけつ
おもてをふせて
掌(て)のなかに 夢をゑがきぬ
しろき夢を
浮べる水草
うかべるみづくさの
ただよふならむか
こころ おきどころなく
しろき火に追はれ
しろき路にむかへり
心 か す け し
ゆけるひとを おもへば
心かすけし
心ちる花のごとく
地にまよへり
〔自註〕「ゆけるひと」とはその人の遠く吾よりはなれていますを意味す。
[やぶちゃん注:「かすけし」「幽(かす)けし」。「光・色・音などの対象がかすかで、今にも消えそうなさま」を言う「幽(かそ)けし」に同じ。
最後の詩篇(右ページ)の見開きの左ページには、大手拓次のデッサン「蛙の魔術(まじゆつ)」「1920、11、30」と左下に手書きした、蛙が口を開けて四枚の花びらを吹き出している絵が描かれている。なお、底本の画像は国立国会図書館に許諾を求めなくては掲載出来ない。但し、このデッサンについては、所持する原子朗先生の「底本 大手拓次研究」(一九七八年牧神社刊)の箱及び扉に当該デッサンが使用されていたので、その後者の方を、トリミング補正して、以下に掲げておく。
同書には特に転載禁止事項を挙げておらず、さらに、平面的に撮影されたパブリック・ドメインの画像には著作権は発生しないというのが、文化庁の公式見解である。]
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