大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」 「白き芥子の花」・「みちはさざめけり」・「こゑをうれしみ」・「心を献ぐ」・「何を語るらむ」・「悲しみのうたげ」・「病める花」
[やぶちゃん注:底本その他は始動した一回目の私の冒頭注を参照されたい。特にソリッドに公開したのには意味はない。]
白き芥子の花
わがおもひのいづみ
かのひとは しろき芥子(けし)の花のごとく
ひとすぢの みちのうへにうかべり
はてしなきゆふべの つながりきたる
ひとすぢの
いとほそき みちのうへに にほひつつあり
みちはさざめけり
そは まことのみちらむ
われほとしく かげのなかに さまよへど
このゆくみちは
さびしく あをく さざめけり
こゑをうれしみ
われは われは
ただ
うるはしきこゑを うれしみ
日日(ひび)をすごせり
心 を 献 ぐ
われは わが心をささげむ
われは わがつきざる思ひもて
きみがかたへに 死にゆかむ
きみがかたへに 死にゆかむ
何を語るらむ
うつくしきひとは
こよひ なにをば語るらむ
妹君とふたりして
また母上と
今宵は 何を語るらむ
悲しみのうたげ
葡萄のふさの つぶらみの
こころ惹(ひ)けるも しぐれ月(づき)
つぶらなる實の みづみづと
かなしみの 宴(うたげ)の宵にふさはしし
病 め る 花
(一九二八・八夜、病める人を偲びてつくる)
ひともとの 病める花
おとづれもなけれど
この身にうつる 雨のまばたき
[やぶちゃん注:「一九二八」年は昭和三年で、創作時、拓次は満四十歳。この年、月日は不詳であるが、萩原朔太郎と室生犀星が拓次を下宿に訪ねている。
なお、最後の詩篇の見開き(詩は右ページ)の左ページに、「淚とよろこびの眼」(「淚と」は後から吹き出しで右に添えてある)と右に手書きで記したデッサンがある。下方に手書きで「1920、5、30」とクレジットがある。]
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