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« 佐藤春夫 改作 田園の憂鬱 或は病める薔薇 正規表現版 (その11) | トップページ | 大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」 「きみを思へば」 »

2023/02/06

大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」 「春の日なれど」・「あきらかになりゆく影」・「木の間の花のごとく」・「悲しみは去らず」・「水に浮く花」・「白き悲しみ」・「海のふかみをたたへ」・「ひとひらの雪」・「はぢらひの衣」・「あをきまぼろし」・「白き月」・「小鳥の如き溜息」・「水底にうつるもの」・「いよよさあをに」

 

[やぶちゃん注:底本その他は始動した一回目の私の冒頭注を参照されたい。特にソリッドに公開したのには意味はない。]

 

 春の日なれど

 

花咲きしと いふなれど

この心もて などゆかむ

つづまやかなる この悲しみを

やはらかき風の そと撫でゆけり

 

[やぶちゃん注:「つづまやかなる」「約まやかなる」。控えめで質素な。つつましい。]

 

 

 

 あきらかになりゆく影

 

みのわづらひに くづをれて

さみしさの 淵にしづみゆけど

いよよ さやかに

うかみいづる そのおもかげ

まこと ひとときも消えさらぬ

そのみづいろのかげ

 

よわよわしく ただよへる影にはあれど

日の經(ふ)るままに

あきらかに なりまさりゆく悲しさ

ああ そのすずやかなる こゑのあらばや

 

 

 

 木の間の花のごとく

 

かくれたる木(こ)の間(ま)より

もれいづる花のごとく

かすかにも ゆれてきたりぬ

その しろきかほの にほはしさ

 

 

 

 悲しみは去らず

 

かなしみは かなたへ去らず

日影のごとく うつろへど

はてしなき いのちのなかに たそがるる

 

 

 

 水 に 浮 く 花

 

みづのなかに うかべる花

こゑをはなてり

 

 

 

 白き悲しみ

 

ねがひは けむりの如くなるなかれ

その しろきかなしみに

わだつみの波 くづるるものを

 

 

 

 海のふかみをたたへ

 

その珠(たま)は しろくうるはしく

あをうみの深みをたたへ

しづかなる こずゑの姿に似たり

もの いまだ あらはれず

ひびきのみ けはひにつたふ

 

 

 

 ひとひらの雪

 

このためらひを いづこにすつべきや

身は ながるる雪のひとひらならむ

むなしかる いのちのうへに

きえがての

ひとひらの雪にや あらむ

 

[やぶちゃん注:「きえがて」「消えがて」。古語の形容動詞「消えがてなり」の語幹の名詞的用法。「消えにくい様子であること・容易に消えないこと」の意。「消えがて」は動詞「消ゆ」の連用形に、「できる・たえる」意味の動詞「かつ」の未然形「かて」が付いた「消えかて」が濁音化したもの。]

 

 

 

 はじらひの衣

 

汝(な)がかほの

眼路(めぢ)のかぎりに あるときは

こころ ときめき

はぢらひの衣(きぬ) われをおほへり

 

 

 

 あをきまぼろし

 

かぎりなく ひろごりゆく

あをき手のまぼろし

あをき月のまぼろし

げにもさみしき

あをきまぼろし

うつつなき 花をうがちて

こころむなしく しらべをおとす

 

 

 

 白 き 月

 

ゆふべ

しろき月のぼりぬ

うすあをの

うすむらさきの

うすくれなゐの

雲のまうへに

しろき月 のぼりぬ

わが心にも

しろき月 のぼりぬ

 

 

 

 小鳥の如き溜息

 

ほのほは あをき水にぬれ

かたちを消して

そことなく みだれつつあり

 

ああ しろき小鳥のごとき溜息は

時の彼方(かなた)に たたずめり

 

 

 

 水底にうつるもの

 

水底(みづそこ)に うつるものは

さだめなき 時のながれなり

われ くちびるをとざして

雲のゆくへの はかなさを思ひをれば

うるはしきもの いよよ輝けり

 

 

 

 いよよさあをに

 

わがかなしみは

そのままに あらしめよ

わが胸に生(お)ふる草 しげらせよ

わがみは いよよきよらかに

いよよ さあをになりゆかむ

 

[やぶちゃん注:この最後の詩篇(右ページ)の見開きの左ページに大手拓次のデッサン「夕立」(右上に手書きで記す)がある。右下方に「1920、5、16」と手書きクレジットがある。なお、所持する岩波文庫原子朗先生の編になる「大手拓次詩集」(一九九一年刊)のパート標題ページの下方に、このデッサンが使用されていたので、トリミング補正して、相当箇所の私の注の中に掲げておく。

 

Yufudati

 

同書には特に転載禁止事項を挙げておらず、さらに、平面的に撮影されたパブリック・ドメインの画像には著作権は発生しないというのが、文化庁の公式見解である。]

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