「續南方隨筆」正規表現版オリジナル注附 「話俗隨筆」パート 魚の眼に星入る事
[やぶちゃん注:「續南方隨筆」は大正一五(一九二六)年十一月に岡書院から刊行された。
以下の底本は国立国会図書館デジタルコレクションの原本画像を視認した。今回の分はここ。但し、加工データとして、サイト「私設万葉文庫」にある、電子テクスト(底本は平凡社「南方熊楠全集」第二巻(南方閑話・南方随筆・続南方随筆)一九七一年刊)を使用させて戴くこととした。ここに御礼申し上げる。疑問箇所は所持する平凡社「南方熊楠選集4」の「続南方随筆」(一九八四年刊・新字新仮名)で校合した。
注は文中及び各段落末に配した。彼の読点欠や、句点なしの読点連続には、流石に生理的に耐え切れなくなってきたので、向後、「選集」を参考に、段落・改行を追加し、一部、《 》で推定の歴史的仮名遣の読みを添え(丸括弧分は熊楠が振ったもの)、句読点や記号を私が勝手に変更したり、入れたりする。漢文脈部分は後に推定訓読を添えた。
なお、底本では標題下の初出附記が「(同前)」(前記事と同じの意)となっているが、単発で電子化しているので、正規に記した。]
魚の眼に星入る事 (大正三年一月『民俗』第二年第一報)
宮崎氏、又、言《いは》く、「瀨戶内海の魚は、みな、讃岐の魚島《うおしま》まで、登る。サゴシは、登るうちは、右眼、降《くだ》る時は、左眼に、星入り、あり。紀・泉二國の山を見當として游《およ》ぐ故。」と。
[やぶちゃん注:「宮崎氏、又、言く」前の同じ雑誌に載った「ウガと云ふ魚の事」を受けている謂い。『田邊町の大字片町の漁夫』で『海のことを多く知た宮崎駒吉』氏を指す。
「魚島」愛媛県越智郡上島町魚島(グーグル・マップ・データ)。
「サゴシ」スズキ目サバ亜目サバ科サバ亜科サワラ族サワラ属サワラ Scomberomorus niphonius の出世魚としての小型のものを指す。「サワラ」の漢字表記は「鰆」「馬鮫魚」。サワラは細長い体形をした大型になる肉食魚であるが、その小型の四十~五十センチメートルほどの個体を「サゴシ・サゴチ」(青箭魚:「青い矢の魚」)と呼ぶ。但し、「さごし」の名は「狭腰」魚が由来とされる。ここで「星」が入るというのは、実際にそうしたサワラを見たことはないが、海上に出て、山を見当としてみるために、太陽の光りで焼けるため、というこか。因みに、調べているうちに、「岡山商工会議所」公式サイト内の「さわらにまつわることわざ」に、『晴れている暗夜は漁獲が多い。さわら流し網に最も漁獲が多いのは、星がきらめく暗夜に漁獲が多いという例によるもので、真黒の暗夜よりも漁獲が多いという』。『これはたぶん、網具の動揺により夜光虫の発する小さな光が、星明りの暗夜のほうが、真黒の暗夜よりもさわらの目にうつることが少ないからだろう』とあるのが、目に止まった。他に、『サワラは潮流に向かって遊泳する。流し網にかかるさわらは十中八九まで潮流に向かってかかる』ともあり、『大型のさわらは底層を泳ぎ、小型さわらは上層に多い』(☜)ともあった。]
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