大手拓次詩畫集「蛇の花嫁」 「雨の柳」・「わがことば」・「黑き花」・「銀の角笛を思へども」・「眼をとざす」
[やぶちゃん注:底本その他は始動した一回目の私の冒頭注を参照されたい。特にソリッドに公開したのには意味はない。]
雨 の 柳
秋雨に 柳はみだるるよ
しだれ しだれて ゆれなびくよ
しどろ しどろに みだれなびくよ
西に 南に
ふりみだす髮の しだれよ
わがことば
こころ かなしきときは
わがことば きゆばかりなり
こころ さびしきときは
わがことば ふるへつつおぼろなり
こころ いよよ まことなるとき
わがことば 鋼鐵(はがね)のごとく
熱くするどし
黑 き 花
にほひたかき 黑き花
われをおとづれたり
そは 何のしるしぞや
わがかなしみは
冰(こほ)れる海のごとく
みじろぎもせで
苦悶のこゑを爲す
銀の角笛を思へども
汝(な)を戀ふる目の くらくして
われ 銀の角笛をおもへども
あをぞらをゆく紅鳥(べにどり)の
つばさかろきを 如何にせむ
ああ
汝(な)をこふる日の くらくして
眼にうつるもの
なべて 色なし
[やぶちゃん注:この詩篇、巻末の「目次」に従うと、「銀の角笛」であるが、或いは、目次の誤記の可能性が疑われるように思う。標題の誤りは、前の場合には、手書き鉛筆補正が丹念に行われていたが、ここにはないからである。なお、「紅鳥」は種の同定が私には出来ない。]
眼をとざす
汝が その日その日の こころのすがた
われは とらへむとして
眼をとざす
[やぶちゃん注:最後の詩篇は見開きの右ページで、左ページには、手書きで「白晝の魔物」と右上に記した奇体なデッサンが載る。右下方に手書きで「1920、5、16」のクレジットがある。]
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